約 2,471,442 件
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/224.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1281447547/799-805 「………………黒猫……かな」 「なっ!?」「……ッ……!」 本当はどっちが興奮したかなんて選べようもないんだけどな。 だって、んなこと考えていなかったし、言われてから初めて勃っちまってるのに気づいたわけなんだしさ。 それでも黒猫と答えたのは、返答を迫られる短い時間で考えた二つほどの理由からだ。 一つは「どっちも」なんて答えを言おうものなら両方から張り手が飛んできそうだということ。いや、きそうじゃねえな百パーセント飛んでくる。そんな痛い答えは言いたくない。 もう一つは。 言うまでもねえ、桐乃は妹だからだ。妹相手に興奮したなんて言ってみろ。ぜってえこの先、顔を合わせるたびにシスコンと罵倒してくるだろうぜ俺の妹は。 なわけで俺は黒猫と答えた。別に嘘ついてるわけじゃあないよ? 俺のチキンハートが跳ねまわっていたのはマジなんだし。 「ま、まったく……。先輩には困ったものね。フ、フン。いやらしい」 「あ、あはは。す、すまん。だってよ、おまえがあんな風に。か、可愛い顔見せてくるもんだから、ついな」 「……!? お、お世辞なんて言われたって嬉しくはないわっ」 「いやお世辞じゃないって! ほんとだって黒猫」 「ば、莫迦っ。知らない」 黒猫は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。 恥じらっているしぐさがまた俺の心臓を打つ。 そういや俺ってコイツにキスされたこともあるんだよな。やっぱりこれは好意を持っていると受け取っていいんじゃね? うん、いいはずだ。やっべ、さっきより超ドキドキしてきた。 そして俺はさっきから別の意味でもドキドキしていた。冷や汗もかいていたりする。 どうしてかって? そりゃ……決まっているだろ。 さっきから俺にグサリと刺さっている恐ろしい妹様の眼が気になるからだよ。 「き、桐乃さん。あの、ほら? おまえの胸がイヤってわけじゃなくてさ、やっぱ俺に妹属性つーのは……」 「どういうことよアンタ――ッ!」 ぎゃああああああああ! 怒りを鎮めてもらおうと言葉をかけたのが逆効果。怒れる俺の妹は首をぐいぐい絞めつけてきた。 つーか死ぬ、死ぬってば! 桐乃さんやめて!? 「あ、あんた。あたしのむ、胸に触ったくせにコイツの方がいいなんてどういうこと!」 「ぐぇ~。お、俺が自分からやったみてえに言うなよ!?」 「しらばっくれんなっ。 あ、あたしの胸にもぞもぞ顔擦りつけてたくせに!」 「おまえが無理やり押し付けたんだろ!? 俺は離れようともがいてたダケだっつの」 「それにしては随分締まりの無い顔をしていたみたいだけど?」 おいコラ、黒猫! どうしてそこで桐乃を援護するようなことを言うの!? 「やっぱり! このスケベ! 変態兄貴!」 黒猫の後押しを受けて桐乃は更に俺の首を掴んでがっくんがっくん振り回してくる。 おまえら、数秒前まで対立してるような雰囲気だったのに、いつの間にデタントしたのよ? 特に黒猫、 「俺が苦しんでるの喜んでるだろ! この鬼畜!」 「お世辞じゃない褒め言葉として受け止めておくわ。ありがとう、先輩」 お世辞でもねえし褒めてもねえよ! 性悪そうな笑みが無駄に可愛いなあ、くっそう。いかん、さっきからずっと首振り回されてるのも手伝って頭が真っ白になってきた。 危険を感じて桐乃の腕を掴んでなんとかひっぺがす。 「やめろって桐乃! だから誤解だ、服の上からで感触なんて良く分かんなかったしさあ!?」 「だ、だから黒いのの方に興奮したってこと?」 まだこだわってんのかよ、負けず嫌い過ぎだろおまえ。 「そ、そういうことだ。 てか比べようもねえよ、こんなん」 「む……分かった」 桐乃はようやく納得がいったのか、口をふさいだ。 あー疲れた。 ふぅっと息を吐きかけようとしたら、桐乃は凄いことを言い出した。 「服の上からじゃ分からないってんなら……。ちょ、ちょくせ……直接触ってみればいいじゃない!」 「はヒィ!?」 喉まで出かかった息が逆流して、声音が狂う。 こいつ、今なんて言った? 直接触ってみろって言ったのか? 何を? おっぱい? おっぱい触れって? 誰が? 俺? 俺が触るの? 誰の? 妹の、桐乃のおっぱいを――ッ!? 桐乃の発言を脳内に伝達する作業にいくつ疑問符を使ったのか自分でも分からない。 「お、おま……バッ! な、なっなな――ッ!? 触るってそんなこと! ゴックン。で、出来るわけねえだろ!」 「どうしてよ?」 「どうしてって、その……」 俺は助けを求めるように黒猫に顔を向けた。が、その黒猫は( ゚д゚)とした表情で石化。 当たり前だろう、いきなり友人が自分の兄に向かって胸を触れと言い出してんだからその心中は推して知るべしである。 「こっち見なさいよ」 桐乃が俺の顔を掴んで再び兄妹で対峙する。 「き、桐乃、俺とお前は兄妹だぞ? そ、そんな妹のおっぱ……胸触るなんて。お、おかしいだろ?」 「その妹の胸に顔埋めてたくせに……何言っちゃってんの、シスコン」 「だから俺の意志じゃ――」 「嘘ばっか。あ、あんたが妹の胸でも興奮する変態だってこと証明してやる!」 「そ、そんなこと証明してどうしようってんだよ。お、俺は出来ねえかんな!」 「意気地なし……ヘタレ」 憎まれ口を叩きながら桐乃は口を尖らせて俺の顔を睨めつける。 意気地がないという問題なんだろうか? いや違うだろ!? どう考えても妹のおおお、おっぱいに触る(しかも直接)なんてことを、どこの兄貴が平然とするよ? しかもおまえ、自分だって恥ずかしがってるじゃねえか。顔が燃えてるみたいになってんぞ。 「桐乃、自分で分かってんだろ? も、もしかして俺に出来るわけねえって、またからかってやがんのか?」 「意気地なし」 もう一度、桐乃が同じ台詞をぼそりと呟いた。嘘ではないという意味も含まれているような声色。 ぐ……、やっぱり本気なのか桐乃? ヤバいって、俺チョーヤバいって! 俺にだって人並みの理性というやつは備わっている。頭のどこかでそれは働いていて、しっかりと俺の行動を制御してくれている。 だけどさ、今の桐乃を見てそれを保てというのは――む、無理だ。 メチャクチャ可愛いんだよ。耳までを赤く染めている顔、キメ細かい肌、プルンと柔らかそうでみずみずしい唇、そしてさっきから俺の目を釘付けにしている二つの膨らみ。 認めたくもねえが、可愛げのねえことを口にする態度も……。全部が全部、俺を惹き寄つけてしまう。 その桐乃がおっぱいを触れと言ってきている。 股間に血が行き過ぎて思考が変になっているんだろうか、それとも知らない間に頭でも打ってどこかおかしくなったのか、 「桐乃、本当にいいんだよな? い、イヤだったら今の内に言えよ?」 さっきから開けっ放しで乾いてる口内からそんな言葉が漏れてしまった。 「も、もうどうなっても……し、知らんからな」 「ハ、ハン! く、口が回ってないくせに強がっても……い、意味ないっての」 おまえだってそうじゃねえかよ。 心の中で独りごちながら、俺は桐乃の肩を抱き寄せて、ゆっくりと桐乃の服を脱がせていった。 もしかしたら鉄拳か張り手か蹴りが飛んでくるかもと身構えたが、そんな気配を桐乃は見せなかった。抱き寄せたときにピクンとからだを竦ませただけで、俺に身を任せている。 徐々にあらわになっていく桐乃の素肌、目を焼かれてしまいそうだ。 「ほ、ほら。手ぇ上げろ」 「…………ん」 素直に俺の言うことを聞いて、桐乃は手をあげる。ゆるゆるとシャツは頭から脱ぎ去って。 あとはブラジャーを、俺が外すんだよな? 漫画などでホックが外せなくてしどろもどろになるシーンを思い出して緊張したが、背中のホックはなんなく外すことができた。 大銀行の地下金庫並みに堅牢かと思ってたが。はは、なんだ結構簡単なんだな。ふぅ。 ブラは桐乃のからだから離れ、ベッドにぱさりと軽い音を立てた。それを聞くだけで、心拍数が上がった気がした。 「じゃ、じゃあ触るから手をどけろよ桐乃」 「あ、あんまやらしく触ったら許さないからね」 おっぱいを目の前にした男に無理言うな。 これでも鷲掴みにして揉みくちゃにしたい衝動と必死に戦っているんだぞ? 「……ごくり」 唾を飲み下しながら、桐乃が手で隠している膨らみへと腕を伸ばして、ゆっくりと手を差し入れていく。 桐乃の腕にはさほど力は無く、侵入を拒んでいるわけではなさそうだ。 嫌がってない……よな。それを裏付けるような手応えに心なしか嬉しくなった。 おもいきって俺はもう片方の手で、胸を隠している桐乃の腕を解かせた。今度は少し抵抗を感じたが、おっぱいを触りたいから力を入れて引き離す。 さっきまでのやめろと言っていた俺はもういない。いるのはただ、おっぱいへ引き寄せられている男が一人。 やがて、俺の手は桐乃の腕を解けさせて。 「……んっ」 「……おっ」 おおぉぉぉおおぉお! おっぱい柔らけえええぇぇぇぇええ!? すごい、何これ柔らかい! 脂肪なんだから当たり前なんだけど、鳥肌もんだよ! マシュマロ、ゼリー、ゴムボール、低反発枕、水風船。 くぅぅ~~どれも比喩に当てはまらねえよ、もうおっぱいはおっぱいで良い! 桐乃のおっぱいはおっぱいのような柔らかさだ。 手の平から指先から全神経を使って俺は桐乃のおっぱいの感触を堪能しだした。 「ゃ、ゃだ。触り方エロい! ひゃっひぃ……ちょ、ちょっと……鼻息がキモいんですけどォ」 「し、仕方ねえだろ。エロいのはおまえのおっぱいがエロいからだ」 胸とかオブラートに包んで言う配慮も既に無くなっているくらい、俺はおっぱいの感触に夢中になっていた。 話している最中も俺の両手はグーとパーを繰り返すようにおっぱいを握り締めたり、手に乗せてボールを転がすようにしたり、指の先で乳首の周りを撫で回したり、乳首を摘んだりと目覚しい仕事ぶりを発揮している。 手に桐乃の乳房を感じたびに俺の鼓動がどんどこどん。 「あっあっ……や、ヤダ! ち、乳首は……ぃんんぅ……ひふゅん」 桐乃は俺が今まで聴いたことが無い声を出しながら、俺の腕の中で身をよじっている。 か、かわいいじゃん……。 思わずこいつのクソ生意気な態度を忘れてしまいそうになる。 「ちょっと、はぁはぁ。ぃっ……うっひぁん……アンタいい加減に……。あっ……はぁ……やっぱアンタ変態じゃないの!?」 文句を言われても、悩ましげな吐息が目に見えるようで、むしろ俺は興奮をかき立てられるだけだ。 いっそう二つのおっぱいを揉みしだいていると、先端に違和感を覚えた。 ん? あれ? 乳首がなんか固くなってきたような気がする。もしかして桐乃のやつ、感じているのか? そう思った瞬間、からだが熱くなった気がした。 だがそこで、 「もう……もうダメ! ここまで」 桐乃は俺から離れてしまった。 「こ、ここまでだからね。はぁはぁ。さっきからお尻にあんたのが当たってて。もう充分だって分かったから」 充分だと? 何が? 「フ、フンッ! このシスコン。あ、あんたがアタシに興奮するってのがよっく分かったわ。だ、だからもうおしま……な、何よその目は? ちょ、ちょっと兄貴? なんでシャツ脱いでんのよ!?」 そうだったな、おまえ俺が興奮するか証明したかったとか言っていたな。 くやしいが、確かに俺はおまえのおっぱいに興奮した。はっきり言って、興奮しすぎた。もうシスコンと嘲られようがなんだろうが、仕方は無い。甘んじて受け入れよう。 だから――ッ! 「ここまでってそんなんアリになるかよ! 俺はもう――! きっ桐乃ッ!」 「きゃっ! あ、兄貴やめッ!?」 ガバっと勢いよく俺は桐乃に飛びついた。 そのままおっぱいにダイブを決めて、顔を埋める。 「ひゃ、このシスコン! やめろって言ってんでしょうがぁ――!?」 「どうなっても知らんと確認したじゃねえか!」 髪を引っ張られたり頭を叩かれたりするがそんな痛みは知ったことじゃねえ。 俺は手に変わって今度は口で桐乃のおっぱいを味わい始めた。 「あっ、やっ……ひぅんん~!? ちょっと舐め、舐めんなバカァ! ひぅん……ゃあん、はぁうん。そ、そこ噛むなぁぁ変態ぃぃ!」 「変態って、おっぱい触れとか言ってきたのはおまえじゃねえか」 「うるひゃ、はひぃん、あん! ひゃへっ……へ、変態はアンタだっつの! ひゃふぅ……あっあっあん」 舌で舐めまわしながら乳首を甘噛みすると、桐乃はさっきと同じように甘い息を吐き出し始めた。 やっぱこいつ感じてる。乳首もピンと勃ちあがりコリコリとした弾力が歯に伝わる。 自分の舌で感じている桐乃を俺はたまらなく愛おしいと想った。 顔や舌もそうだが、素肌に伝わってくる桐乃の体温がその想いを加速させているみてえだ。 こいつは普段つっけんどんで生意気で、兄貴の俺をアゴで使うクソアマだが、それでも時折見せる桐乃の可愛いしぐさや声、顔が、俺は実はキライじゃなかったりする。 でも、イラっとくることの方が多いし、なにより照れ臭いから「まあ、かわいいんじゃん?」とか言ったりするくらいだ。 そういうわけで次の台詞は、膨らみすぎたスケベ心で頭のネジが二、三本飛んでったせいだとしておこう。 じゃねえと俺の自我が保ちそうに無い。 「桐乃、可愛いぞ。すっげえ可愛い! 赤くなってる顔も、声も。可愛すぎだろおまえ!? ちゅろ。おっぱいも綺麗だしよ。乳首も、ぺろぺろ」 ビクンと桐乃のからだが一瞬跳ねた。 「……ッ!? い、いいいいきなり変なこ、こと! はっひゅ……あっん……。言うなぁシスコン! ス、スケベ!」 「んむっ、れろ。 マジだって! 嘘なんかじゃねえ、掛け値なしでそう思うんだから仕方ねえだろ? もっとそういう顔が見てみたい、もっと声も聴かせてくれよ桐乃!」 「ウザッ……ひぃうん……あっんん。ウ、ウザい! 死ねっ、マジで死ねバカ兄貴!」 「イヤだね。せっかくおまえがそんな顔してんのに死ねるか! もっと良く見せてくれよ、ほら?」 顔を上げて桐乃の顔を覗き込むと、茹で上がったように頭からケムリを噴いていた。 おっぱいを触られたせいだろうか、桐乃は上気して「はぁはぁ」と荒げている。 息が顔にかかるが、それを俺は甘いと感じた。 そんな変態のような嗅覚が自分に備わっているなんて信じたくはねえが、今はおいておこう。桐乃が何か言いそうだ。 「ば、ば~か、キモいんだよシスコン」 数秒ほどで息を整えると、桐乃は俺の顔を見たままそう言った。 勢いでクソ恥ずかしい台詞を吐いて返ってきたのは罵詈雑言。それでも充分に元は取れてる気がするかな、俺が見たい顔だったから。 へっ。や、やっぱ可愛いんじゃん? まあ元々こいつはかなりの美少女だし? 誰もが認めるところで、俺もそこに異議はねえよ。 「キモい顔いつまでも向けんなシスコン!」 ……口は悪いけど。 でも、不思議とムカつかない奇妙な精神状態に陥っている俺。言われるとおりキモい気がしないでもない。まあいいや。 で、再び桐乃のおっぱいに顔を埋めようとしたとき、 「あっあっあなた……ああああなたたち、ななっなっなっ…………?」 それまで石化していた、もう一人の可愛い顔をした美少女が動き出した。 からだと声をぶるぶる震わしながら俺たちを指差す。 どうやら今しがた強制停止していた思考が再起動して、俺と桐乃のあられもない姿を認識したみたいだ。 「あ、ああああり得ないわ。わ、私はいつ淫魔の巣窟に迷い込んでしまったの?」 「淫魔の巣窟って……」 まあ桐乃の爆弾発言を聞いて、追い討ちのように上半身裸の俺たちを見たんじゃあ、超恥ずかしがり屋の黒猫からすれば、当然のことで仕方無いのかもしれない。 「黒猫、これには色々と訳があってだな――」 訳も何も見たまんまなんだが、それでも俺は黒猫の心身を落ち着かせようとした。 「こ、これは違うんだからね!? こいつが妹で欲情する変態だってのを確かめようとしただけで――」 桐乃も同じ考えなのか、口を揃えて黒猫に言い訳をしゃべりだす。 ……まあ欲情しちゃったけどさあ、した結果こうなってんだから言い訳になって無いって気付いてないんだろうかね? 「破廉恥よっ。こ、こんな。けがっ汚らわしい……は、裸でいるなんて……ッ」 そうとうテンパってしまっている黒猫。 無表情が多い顔は、というか首から上全部が赤くなってしまっている。 目も涙を湛えて、呂律の回っていない口はパクパクと小動物のように小刻みに動いている。 「……くっ! か、可愛い!」 横にいた桐乃が黒猫の様子を端的に述べた。 うん、すごい可愛い。黒猫も桐乃とはタイプが違うが、すごい美少女であることには変わりは無い。 俺には無表情、桐乃には邪悪な笑みを浮かべるその美少女が、恥じらいの感情をおおいに発露させている。 極めつけは頭につけているネコミミのカチューシャ。今も装着した人物の心情など理解せず愛らしくピコピコと動いている。 俺と桐乃は言い訳も止めて、それに見とれた。 「か、かか可愛いとか、変なこと言わないで頂戴(ピコピコ)」 「くはぁ~~~! 顔赤くしてピコピコしてるよぉぉ! 超可愛いぃぃ!?」 桐乃はなんだかテンションが上がっているのか、本心では思っていても黒猫相手に口には出さないようなことも何故か言っている。 どうしたんだおまえ? 「ふっ、ふざけないで。(ピコピコ)い、いいっいいから……さっさと二人とも服を着なさいッ(ピコピコ)」 「はぅぅぅわあぁぁああッ! あ、あたしもう、ダメ……ガ、ガマンできない……ゴク」 「ダメなのは知って――ってあなた。そ、その手をどうする気……?」 「裸が恥ずかしいなら、一緒に裸になれば恥ずかしくなくなるよ?」 桐乃がスケベ親父のような手つきで黒猫ににじり寄りだした。 「あんた恥ずかしがってコスプレしたときも隅っこの方で着替えてたしィ、肌出さない服も着てるしィ。たまには……ゴクン……薄着したっていいっしょ?」 「い、いいい今も充分薄着にされてるわよっ。」 そう、萌えを探求するために桐乃は黒猫の上着を剥いでいた。 黒猫の今の姿は半袖とミニスカート、あとは丈の長い靴下。ニーソって言うのか? この姿を薄着にするっていうことは。 「や、止めなさいっ。冗談にしても……タチが悪すぎよあなた(ピコピコ)」 「はぁ……はぁ……。だ、大丈夫。冗談じゃなくて…………本気だから――ッッ!」 叫ぶと同時に桐乃は黒猫に襲いかかった。 陸上部エース様の加速力はダテじゃねえ、瞬き一つする間に黒猫を捕まえてベッドに二人して倒れこむ。 「や、やめ――止めなさいッ、殴るわよこの変態女」 「問答無用!」 ジタバタと暴れる黒猫、それを押さえつけようとする桐乃。両者の力は拮抗していた。 「人間が、ゼロ距離戦闘で私に、勝てるつもり――」 「か、可愛いぃぃぃ! アンタの厨二ゼリフがここまで萌えたの初めてかもおおおぉぉ!?」 おいおい、桐乃よテンションが完全におかしくなってるぞ? 確かに黒猫は超可愛いけど、可愛い友達を無理やり脱がすっていうのはどうなのよ? 黒猫は超恥ずかしがり屋さんなんだからさあ、女のおまえでも裸見られるのは……。 ったく、しょうがねえなこの妹は――、 俺はもつれあう二人に近づいてこう言った。 「桐乃、俺も手伝おう」
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/528.html
http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308729425/520-540 「きり、の……」 いつか聞いた幻聴が、彼自身の口で繰り返された。 「いかないで」 ただ、それだけだった。 桐乃が口にしたのは――たった一言、それだけだった。 でも、それだけで、“私”はもう、なにも言えなくなってしまった。 桐乃は中学のジャージを着ていた。 髪留めはなく、垂れた前髪が表情を隠していた。 項垂れて、力なく伸ばした手で、京介のパーカーの裾を握っていた。 その手が心細げに小さく震えた。 再び花火が打ち上がった。 前髪越しに、きらりと光るものが覗いた。はっきりと、見えてしまった。 あたり一面が明滅し、ドン、ドンドンドンドン、と、重い大気が激しく鼓膜を打ち叩く。 連発花火の容赦ない喧噪のなかで、桐乃の唇だけが、かすかに動いていた。 まもなくしんとなって、夕闇がたちこめる。 京介の腕がするりと抜けていった。あっけなかった。 “私”の手は、もう言うことを聞いてくれなかった。 シャツをつかむ桐乃の手に、京介の手が重なった。桐乃の肩がびくんと跳ねた。 京介は桐乃の強ばった指を、壊れ物を扱うように繊細な手つきで一本一本裾から外してゆき、 それから、あらためて桐乃に向き直った。 「桐乃」 と、京介は言った。そして、肩をすぼめた桐乃の頭に、ぽんと軽く手を乗せる。 「ばかだな、おまえ。こんなカッコして、こんなとこにくるなんて……ほんと、ばかだよ」 京介が桐乃を撫でている。桐乃は涙ぐんだ目を猫のように細めている。 ――やめて。そいつはあんたの妹なんかじゃない。 あたしの叫びは声にはならず、私は呼吸を荒げるだけだった。 「でもな……俺は、もっとばかだ。大ばかだ」 そのさきは、聞きたくない。けれど私の全身は微動だにしない。 京介の選択を最後まで見とどけるよう、あたしに強いる。 「あのときの俺を、ぶん殴ってやりたい……」 いいかげんに吹かれた笛のような音が、天空高く伸びていく。京介が振り向いた。 「……ごめん。黒猫」 ドン、と、心臓を横殴りに響きわたった。 「……俺、わかっちまったんだ」 光の雨に打たれる兄貴の顔は格好良かった。 「おまえと過ごした今年の夏は、楽しかった。きっと一生忘れないと思う。……だけどさ」 例のふやけた音が、幾筋も幾筋も金魚のふんみたいに纏わり付いて立ちのぼる。 うらぶれた火球のぱらぱらという嘆息に、厚かましく被さった。 「…………じゃ、駄目だと思っ…………こいつに自分勝手な気持を……いて、 自分はちゃっかり…………後ろめたくて、ずっと躊躇してい……」 ドンドンドンドン……ああもう、やかましい。京介の声が聞けないじゃないの。 近所迷惑くらい考えろっての。だいたいこんなんのどこがいいワケ? くっさい火の玉で空をギランギランに飾り立ててせっかくの星空が台なしなんですケド。 ぐっちゃぐっちゃの光り物見てわーきれーっておめーらカラスかっつーの。 「……本当の気……を、ようやく……」 美しく咲き乱れるだとか儚くて感動するだとかなんとか、 じゃあ夜空に残った染みみたいな煙の塊はなに? そいつのうんち? あーもーほんっとウザっ下痢ピー打ち上げてどや顔でスターマインでございっとか ニコ動の~してみたと同じくらいウザいしベスビオス級とか厨二センス極まりない。 「……俺はこいつの兄貴なんだ。どうしようもないシスコンなんだ」 やっとウザいのが止んだ。せいせいした。これでようやく京介の声を―― 「――だから、別れよう」 聞いてあたしは発狂した。 わたあめの袋は投げ出され、メルルの顔が土にまみれている。 ヨーヨーは下駄の歯で破裂し、地面がぬらぬらと光沢を帯びている。 浴衣の帯が緩んで肩はむき出しになっている。 三尺玉の空いっぱいに咲き散る金光を背にし、胸のはだけるのもかまわず、 あたしは京介にむしゃぶりついていた。 「――どうしてねえどうしてウソよウソだって言ってよ京介 お願い別れるなんてウソだよねあたしたちずっといっしょにいようっていったじゃない 約束したじゃない愛しあったじゃない桐乃は妹なんだよ結ばれちゃだめなんだよ 親不孝なんだよ私じゃないと結婚できないんだよどうしてそんなことを言うの 私たち愛しあってるのにどうして別れなきゃいけないの妹なんて大嫌いなんでしょ あなたそう言ってたでしょう嫌いだ嫌いだってあんた言ってたでしょあのとき あんな顔してたでしょうだから私は、あたしはっ……!」 「くろ……ねこ? おまえ、いったい……」 京介はどうしてこんな顔をするんだろう。けど、その理由はすぐにわかった。 「ああ、そっか。そうかそうかそうかそうかぁ――あたしの愛し方が足りなかったんだ」 すぐさま足払いをかけて押し倒す。 京介は尻餅をついて苦しそうに呻いたけど、そんなのもう関係ない。 あたしがどれほどあんたを愛しているのか、思い知らせてあげないといけないのだ。 「お、おい! ちょ、待てよ!」 ベルトのバックルに片手を伸ばしつつ、もう片手でその下をさする。 「や、やめろ黒猫……俺にはもう……それに、こんなところで……」 一昨日なんか「エターナルフォースブリザーメン! 相手は孕むッ!」ってシテたくせに、 今さらなぜ抵抗するのだろう。理解に苦しむ。 「私は――黒猫は、京介のためならなんだってする。してみせるわ。 京介がもはや私と付き合えないというのなら、超すごい私の愛を見せつけてやるだけのことよ」 そうまくし立てながらファスナーの引き手を摘んだとき、 「――黒猫はそんなこと言わない」 横合いから、そんな声が割り込んだ。 「黒猫はそんなこと言わない。大事なことだから、二度言ったわ」 見上げると、桐乃の目とかち合った。人形めいた瞳が私を見下ろしていた。 あたしを射貫くように、そして哀れむように、たった一言、吐き捨てた。 「無様ね」 あたしは京介を見た。怯えていた。 それであたしは、自分が振舞いが常軌を逸していたのに、やっと気がついた。 あたしは発作的に飛び退いた。 「やめてよ……そんな目で見ないで。哀れまないでよ!」 髪を振り乱して絶叫する。 「好きになって欲しかったの! 女として愛して欲しかった! あたしを、あたしだけを見て欲しかった! なのにどうしてみんな邪魔をするの! 地味子も沙織もあやせもあんたも、 京介も! どうしていつもいつも……」 「そうやって、いつも誰かのせいにして誤魔化すのね」 その言葉にあたしは戦慄し、心臓をわしづかみされたように、固まってしまった。 息ができず、目をそらすことすらできない。桐乃の瞳のなかに、 黒猫の無様な泣き顔が映っていた。 「まあ、別にそのままでもかまわないわ。決着は、もうついたのだから」 “桐乃”が薄笑いを浮かべ、あたしに顔を近寄せて言った。 「“あたし”は京介に彼女ができるなんて絶対イヤ。だから京介も、彼女をつくらない」 桐乃は怪訝顔の京介をちらりと見やって向き直ると、私だけに聞こえるような声量で続けた。 「あんたは京介にふられちゃったけど、もう恋人でもなんでもないけど……安心しなよ。 これからもさ、アキバ行ったり同人誌つくったりして、いっしょに遊ぼう? ……だってあたしたち、友達でしょ? 遠慮しなくていいよ。 こんなことになっちゃったけど、“あたしたち兄妹”は、“あんた”の友達やめたりしないから」 ――そうだ。私はもう京介の恋人じゃない。妹でもない。ただの、友達に過ぎない。 あたしたちは、桐乃と黒猫はある日突然――本当に突然、体が入れ替わった。 まさしく出来の悪い小説みたいにいいかげんな展開だった。 そしてその原因は今なおまったく見当がつかない。 原因がわからない以上、元に戻る術も、保証もない。 京介の恋人になれたことで舞い上がっていたあたしは、そんな単純な事実を失念していた。 「これからも、あたしたちずっと友達でいようね」 瞳のなかの黒猫がにやりと笑った気がした。あたしは気絶した。 見慣れた天井だった。 エアコンの効いた部屋で目ざめると、からだじゅう冷え切っているように感じられた。 「ジャスト二週間ね。いい夢は見れたかしら?」 と、“黒猫”の声が聞こえた。 ベッドの脇を見れば、ジャージ姿の黒猫があたしの椅子にちょこなんと腰掛けて、 漫画に目を落としている。 「これが……いい夢でたまるか、よ」 「沙織のような返しをするのね」 それにしても、長い夢をみていたような気がする。 いやーほんと、それはそれは長い夢だったなぁ。きりりん思わず寝ぼけちゃったよ。 夢の内容? あははは、覚えているわけがない! 「起き抜け早々現実逃避とは……いいご身分だこと」 「ぐぬっ……」 「それよりもまず、あなたは、私に言うべきことがあるのではないかしら」 うん。わかってる。 あたしは黒猫に、ひどいことをした。黒猫の体で、すごいこともした。 「黒猫、あたし――」 「なんて、ね」 素直に謝ろうとしたとたんにさえぎられた。 「今さらだもの。謝罪も賠償も無粋だわ。 それに、私だってなにもしていないといえば嘘になるから」 聞き捨てならないことを言いおる。 「ま、まさかあんた、あのときの嫌み、本気だったんじゃ……」 人を見下すのが超好きなクソ猫のことだ。 あたしに成り代わって第二のリア充人生を送ろうと企みかねない。 「さて、どうかしらね。けれど、大変だったのよ、あの後。 あなたが突然倒れたものだから――あの場にたまたま医者が居合わせたから 大騒ぎにはならなかったものの、タクシーを呼んだりして、 気を失ったあなたを京介と二人でここまで運ぶのに、ずいぶん手こずったわ」 「ふーん……あれ? なにかおかしくない? 気絶したのは“あたし”でしょ?」 “あたし”と言ったところで黒猫を指さした。 「直前で戻ったのよ。ファビョったあなたに、“私”が勝利宣言をした、あのときだわ―― 本当に突然だったの。負け犬がどんなリアクションをするか観察していたら、 いきなり目のまえが真っ暗になったわ。それもほんの一瞬のあいだよ? 気づくと私は大股おっぴろげたはしたない格好で地面に尻餅をついていて、 目のまえには白目を向いたあなたがいる。立ったままびっくんびっくんと痙攣し、 蟹のように泡を吹いている……まるでゾンビ映画みたいだった。 あまりのキモさに私は慟哭してしまったわ」 あたしは、もうお嫁に行けないかもしれない。 それなのにこの黒いのは、やけに嬉嬉ととしてあのときのことを物語る。 「京介もどん引きよ」 ほんといらんことを言う。 「けれどまあ、これにて一件落着ということね。過程はどうあれ、私たちはもとの体に戻れた」 「一件、落着……」 たしかにそうだけど、やっぱりどうも納得できない。 結局、なにもかもうやむやのままなんだから。 「不服そうな顔ね? でも、現実なんて、結局そんなものよ。 劇的な解決もカタルシスもありはしない。 なるべくしてなるというのはむしろまれなことで、 物事の解決というのはたいてい、時か、事件によってなされるもの。 あなたの好きなエロゲーなんかと違ってね。 お兄ちゃんが性的な意味で大好きな妹は、思春期を過ぎれば他の誰かになびくものだし、 夢破れた芸術家も、リストラされたとなれば日々の糧を得るのに精一杯で、 傷心も夢の名残も、慌ただしい日常のなかで埋没して行く。 そう。これっぽっちも美しくはないわ。だから現実はクソなのよ」 黒猫は中二病患者らしく、一人で盛り上がっている。 永遠の十四歳、といってあげればある意味聞こえはいいかもしれないけど、 こんなんだからこいつってぼっちなのよね。 「今回の件は、唐突に始まって、唐突に終わった――ただ、それだけのことだわ」 こいつは一人で勝手に締めくくろうとしてるみたいだ。でも、そうはさせない。 あたしにはまだまだ聞いておかなくちゃいけないことが山ほどあるのだ。 「で、黒猫。――京介は?」 本題を持ち出すと、黒猫は一瞬だけ露骨に嫌な顔をしてから、 「っふ……」といつものような邪気眼電波顔を浮かべた。 「彼は今、一階でご両親に絞られているわ。 “かわいいかわいい兄さんの妹”をほったらかしにしたのみならず、 結果的に、こんな目にあわせてしまったのだから、当然の成り行きね」 その妹とやらがいったい誰を指しているのか考えると無性にこいつの首を絞めたくなるが、 しかしきりりんさんの自制心には定評がある。 高坂桐乃はあやせより加奈子より我慢強い女の子なのだ。あたしは話の続きを待った。 「……ともあれ、安心なさい。兄さんは、あなたが私であったことを知らないわ」 「そっか……」 なんともいえない心地だった。 醜態をさらしたのがあたしだと思われていないことにほっとする反面、 結局あいつには、あたしの気持ちは伝わっていないのだ。 「ク……ふふふふ……! ……私は淫乱ヤンデレキャラとして定着してしまったのだけれどね」 「それはほんとごめん」 本当にすまないと思っている。 「……ま、まあかまわないわ。これから私は、宿望を果たすことができるもの」 「しゅくぼう?」 なにをするつもりだろう。黒猫が立ちあがり、あたしは思わず身構えた。 ベッドのあたしを見下ろして、黒猫はあのときのようににやりと笑った。 「ねぇ、いまどんな気持ち?」 「はぁ?」 「ねぇねぇ、大好きなお兄さんを二度も寝取られて、いまどんな気持ち?」 「へ?」 ほんの数秒、意味が飲み込めなかった。 「京介は私と付き合うと言ってくれたわ。 そして、“私”のために黒猫と別れると、そうも言ってくれたわ」 ああ、こいつは―― ――言ってはいけないことを、言ってしまったのか。 「……ぎぐががががががが……」 「今、どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち? 参考までに聞かせてもらえないかしら? 二度も振られて、二度も寝取られてしまった淫乱ビッチさん」 「……っ殺す! このクソ猫絶対殺すっ……!」 殺意が頂点に達したところで、やにわにこんな言葉が頭に浮かんだ。 ――だがちょっと待って欲しい。 結果だけみれば、きりりん大勝利ということではないだろうか? 手頃な得物を求めて枕元をさまよっていた手が止まる。 「そういえばさ、今のあたしは桐乃で、今のあんたは黒猫なんだよね?」 「……それがどうかしたのかしら」 「あんた振られっぱなしじゃない? 結局あたしの優位かわってなくない?」 黒猫の表情が消えた。図星のようだ。 あたしがお返しとばかりににやにやしてやると、黒猫が抑揚なくつぶやいた。 「あなたって、本当に最低の屑だわ」 「……ごめん。マジで」 あたしって最低だ……でもさ、これって正直ヤバくない? だって京介って、妹のために恋人と別れてくれたんだよね? どんだけシスコンだっつーの。 それじゃあ妹離れなんて永遠にできなくない? あーキモキモ。ちょーキモーい… …ていうかヤバ。まじヤバ。ヨスガ一直線間違いなし。 しかも今やあたし、体は乙女頭脳はオトナな超ハイスペックシスターでしょ? 京介なんか百パー溺れちゃう。受験生なのに、あたしにハマって勉強しなくなっちゃう。 ――なんて馬鹿なことを考えていると、 「そろそろ私はお暇させてもらうわ。 あなたも目ざめたことだし、あまり長居すると、京介が戻って来てしまうから」 「あっ――」 ――そっか。そうよね。 “黒猫”は、京介にあんな醜態を見せてしまったんだから、顔を合わせづらいにちがいない。 気絶したあたしを連れてくるときはいっぱいいっぱいでそんな余裕はなかったけど、 あたしの容態が落ち着いた今、別れた恋人同士は、どんな顔をして話せばいいのだろう。 「心配は無用よ。ここへ来る道すがら京介に説明したわ。 あのことは――闇の力(ダーク・フォース)の反作用体として生じた新たな人格、 “闇猫”がしたことなのだと。京介もちゃんと納得してくれた。 そして、ひどく青ざめた顔で私を気遣ってくれたわ」 邪気眼キャラって超便利。便利すぎてガチでびびられてる。 「ま、まあさ。あいつにはあたしからもフォロー入れておくね。うん」 「ええ、頼むわ……」 と黒猫はわりと切実そうに告げてドアに向かい、そしてドアノブをつかんだところで、 「そうそう、ひとつ、報告し忘れていたことがあったわ」 と、目だけをあたしに振り向けて言った。 「あなたもう処女じゃないから」 「はあっ!?」 こ、このエロ猫、今なんて言った? 「先ほど言ったはずよ。『私だってなにもしていないといえば嘘になるから』と」 クソ猫のとんでもない報告に、あたしは口をあんぐり開けて固まってしまう。 「安心なさい。兄さんは、すごく悦んでくれたわ。 それに私も貴重な体験ができたから――まさか一生で二度も破瓜の痛みを味わうなんて、 なかなか興味深い感覚だったわね」 ぱたん、とドアが閉まった。 「あははっ……」 思わず足の間に手を入れて、あたしは乾いた笑いを上げる。 「冗談だよね……今の、冗談なんだよね……」 そこに京介がやってきた。 「やったぜ……桐乃」 と、青あざのついた顔で京介は言った。見れば全身ぼろぼろで、 お父さんに脱臼させられたのか、肩を押さえて、よろよろと倒れ込むように歩み寄る。 「俺とおまえの仲を、親父たちに認めさせてやった。 お袋はまだ下で泣いてっけど、俺たち兄妹はこれで……って、桐乃?」 京介は呆然としてあたしの顔をのぞき込む。 あたしたちは二人とも呆然とした間抜け顔で向かい合った。 「お、おまえ、本当に桐乃か?」 あたしはこくんとうなずいた。 「本当かー? 本当に桐乃かー?」 もいちどこくんとうなずいた。 けど京介はやおら天井を仰いで、 「嘘だ! 俺の妹がこんなに可愛くないわけがない! 兄さん好き好きけなげオーラが欠片もねーじゃねえか! ハっ……さては悪魔(あやせ)が化けてんだな!? またかよオイ! あやせテメェっ、俺はおまえの彼氏にゃならねぇってなんど言えばわかるんだ!? 体は許しても心は許さないからな! この逆レイパー!」 「し……ししっし、しっししししし……」 「黄金水か!? 黄金水なんだな!? だが断る! もはや俺がそれを飲み干すのはただ一人! すなわち! ラブリーマイシスターきり――」 「――死ねえええええええええ!」 おしまい マインドスワップ 01 マインドスワップ 02
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/1644.html
436 :Monolith兵:2013/04/15(月) 19 01 08 ※この作品にはTSネタが含まれています。ご注意ください。 ネタSS「俺の妹が○○○のわけがない!」 閑話 東京都内にある雑居ビルの一室で、20人ほどの男女が集まり会議を行っていた。部屋はカーテンが締め切られ、スクリーンにはプロジェクターで画像や文字が映し出されていた。 「…このように、当初の予定とは違いましたが、目的を達成したことを報告します。」 スクリーンに映った新垣母娘と京介の写真をレーザーポインターで指しながら、プレゼンを行っていた女性は話を終えた。そして、一礼した後拍手が室内を包み込んだ。 「これでわれわれの悲願も達成できる!」 「ああ!俺妹の世界の修羅場がこの目で見ることができるとは、素晴らしい!?」 プレゼンを行っていた女性は、まだ幼さの残った声で「ありがとうございます。」と再び一礼した。 「しかし、高坂桐乃が転生者だとわかり、更に京介までもが転生者だと知った時のことを考えると、感無量ですな。」 「然り。これで黒猫VSあやせを見ることがきるなど、原作以上の展開じゃないか!」 しかし、賞賛が続く中で一人の壮年男性は不機嫌な顔でスクリーンを見ていた。それに気づいた女性は彼に声を掛けた。 「新垣議員、何か心配事でも?それともあやせが京介にとられて辛いのですか?」 ニヤニヤとした笑みを浮かべた彼女は彼に皮肉を言ったが、彼の答えは違った。 「いや、嶋田さん、いえ京介君にならあやせを任せられる。それは間違いない。しかし、俺妹は京介と桐乃を主軸とした物語であったはずだ。であるのに、あやせは桐乃とのいさかいが起きていない。それのみならず、京介と桐乃の微妙な関係すら存在しない、と言うことに少し物足りなさを感じていただけです。」 その言葉を聞いた会議の出席者の反応はさまざまだった。「まだ言ってるよ。」とか、「そのとおりだ。」や「中の人が嶋田さんと辻さんでラブコメれと?」などと言ったものである。しかし、中にはぶっ飛んだものもいるわけで。 「メインヒロインがTSで妹で前世からの付き合いなんて素晴らしいじゃないか!!」 などと大声で主張する輩もいた。 「中身が爺同士の絡みとかないわ。」 「確かにそれだけ聞けば・・・、しかし中身があの辻だぞ?」 「おいおい、重要なのは妹だと言うことじゃないか。」 もはや室内の雰囲気は一変した。こうなればもう話をまとめるのは難しそうだと考えていた少女、高坂桐乃であったが、新垣議員の一喝によって室内は平穏を取り戻した。 「現在の各ヒロインたちはまだそれほど交流を持っていない。そこで、桐乃君には各ヒロイン間の仲を取り持ってもらいたい。」 それには一同が頷いた。そうしないと面白くない。 「そして、桐乃君にも京介争奪戦に参加してもらいたい。」 その提案を彼が言ったとたん怒号があがった。 「辻ーん相手に恋愛感情を持てる人間がどこにいる!」 「相手はあの魔王だぞ!?」 「そもそも嶋d、いや京介君もそれを知ってるのだから不可能だ!!」 全てが否定的な発言であったが、新垣議員は平然としていた。 「別に本気になれと入っていない。これまでは周りにブラコンの演技をしていたが、これからはブラコンをこじらせて恋愛感情を持ったかのように演技すればいいのだ。そう、各ヒロインたちの前でな。そうすれば嫉妬に駆られた彼女たちは…。後はわかるだろう?」 その話に会議室は一瞬にして静寂を取り戻した。そして、次々と賛成の声が上がっていった。 「と言うわけだ。宜しくお願いするよ、高坂桐乃君。」 桐乃は会議室にいる人間全てからの視線を受け、諦めたかのように溜息をつき一つ頷いた後、「解りました。」と答えた。 そして、「これにて会議をお去りたいと思います。」と桐乃が言った後、全員が立ち上がり声を張り上げた。 「「「今こそ原点に立ち戻ろう!お嬢様学校万歳!ラブコメ万歳!」」」 そしてひときわ大きな声で合唱した。 「「「すべてはMMJのために!」」」 そして、京介をめぐる恋愛バトルは過激なものになることが決定した。 おわり
https://w.atwiki.jp/orenoimoutoga/pages/78.html
告白未遂1はバレてないけど告白未遂2はバレた! -- (名無しさん) 2010-11-15 09 09 47 >告白までの流れ→何か納得。こんだけ手順踏んだら高1ヲタ女子は普通に恋しちゃうわな -- (名無しさん) 2010-11-18 04 54 08 7巻終わりのほうで桐乃と電話で告白関連について宣言してるのでないかと妄想 -- (名無しさん) 2010-11-19 20 53 18 だろうねー んでもって桐乃は兄妹の関係を越えられない事でもいったんじゃなかろうか -- (名無しさん) 2010-11-20 05 48 29 告白の後、恋人になるのに数日かかるのは何か意味あるのかな? -- (名無しさん) 2010-11-23 04 21 36 下の妹、と言うことは最低で二人妹がいるのかも -- (名無しさん) 2010-11-26 22 24 38 アニメ版公式サイト9話予告で猫又派しぼんぬ。放送見てからでないと判断できないけど、この項目も書き直しが必要かな…… -- (名無しさん) 2010-11-27 17 19 21 とりあえず、あの家も妹達も擬態や偽装、とか超展開でもない限りは別人で確定したということでいいな -- (名無しさん) 2010-12-02 01 47 18 七巻でキリノに本名ばれた気がするんだけど勘違いかな -- (名無しさん) 2010-12-05 13 37 41 ↑おっしゃる通り、7巻144頁でバラしてるので修正 -- (名無しさん) 2010-12-10 22 03 21 オフ会参加するまでの経緯、邪気眼全開だけど、今の黒猫知ってるから可愛いと思えるわ。(でなきゃ只只アブナい娘。。。) -- (名無しさん) 2010-12-21 20 14 00 「瑠璃ちゃんが告白するまでの軌跡」ただ、箇条書きしてるだけにも見えるのに、なぜか書き方と言うか表現が可愛く見える -- (名無しさん) 2011-01-29 14 45 48 ↑告白の後、恋人になるのに数日かかったのは、おばあちゃん(真奈実)に相談していたからだろう。テンパった京介ならその位の事やりかねない。真奈実も「私は大丈夫だからくろねこさんを大事にしてあげて」なんて言っているに違いない。この件は真奈実経由であやせにも伝わっており、あやせは「これで京介の魔の手から桐乃を守れる」と、安堵したはずだ。 -- (名無しさん) 2011-02-12 20 16 30 ↑オレは桐乃に相談してたからだと思うんだが。妹の事ではつい数日前にあんだけ大騒ぎしておいて、自分はさっさと勝手に恋人作るとかさすがにねーだろw -- (名無しさん) 2011-02-23 20 27 21 黒猫ってビッチじゃね? -- (名無しさん) 2011-02-28 02 59 46 告白の相談をするとしたら地味子だが、付き合う前のハードルとなるのは桐乃。7巻のブーメランだしな。しかし黒猫は前日の長電話で既に桐乃に自分の意思は伝えてそう。 -- (名無しさん) 2011-03-02 11 39 58 それにしても8巻の完成が待ち遠しい。でも関係者のみなさんも、ACEが終わるまでは本腰入らないだろうね。 -- (名無しさん) 2011-03-02 15 24 04 挿絵じゃたしかに一緒に寝ころんでるが、描写は『ベッドのすぐ脇に座り込んだ』だったり。 -- (名無しさん) 2011-08-01 16 14 48 九巻の内容こっちにまだ反映されてなかったんだな。 -- (名無しさん) 2011-10-25 01 49 57 情報が古いなw -- (名無しさん) 2012-07-15 20 10 34 黒猫、大好き -- (名無し) 2013-04-29 20 04 38 黒猫はベルフェゴールの呪縛から高坂兄妹を解き放つために一人で戦ったんだよね -- (名無しさん) 2013-09-20 00 19 17 結局、黒猫視点では麻奈実は悪役でしかなかったんだろうか? -- (名無しさん) 2013-10-06 15 38 26 黒猫の一件がなかったら、麻奈実は最後まで本当の気持ちを伝えずに「いいひと」で終わったかもしれない。ある意味、救われたのではないかな。 -- (名無しさん) 2013-11-13 00 24 05
https://w.atwiki.jp/fifa-pc/pages/77.html
ゲーム起動後、最初に表示される言語選択画面をスキップします。 ①メモ帳等のテキストエディタで以下のファイルを開きます。 場所 :C \Program Files (x86)\Origin Games\FIFA 16 DEMO ファイル名:install.ini ②開いたファイルに下記のパラメーター(英語を選択する場合)を追加して保存します。 [LOCALE] USE_LANGUAGE_SELECT = 0 [REGION] DEFAULT_REGION = eng,us ※「DEFAULT_REGION」には下記の好きな言語を指定できます。 eng,us fre,fr ger,de ita,it spa,es dut,nl swe,se nor,no dan,dk pol,pl rus,ru spa,mx ara,sa chi,hk por,br tur,tr por,pt cze,cz ③以下のファイルを削除または退避してください。 場所 :C \Program Files (x86)\Origin Games\FIFA 16 DEMO ファイル名:english_us.big
https://w.atwiki.jp/orenoimoutoga/pages/95.html
京介「お前ってダイエットしてんの?」 桐乃「氏ね」 京介「オイちょっと待て! 質問の内容と答えおかしくねぇ!?」 桐乃「ついに妹にセクハラするまで堕ちたワケ? アンタ救いようがないわね」 京介「俺がいつセクハラをした!」 桐乃「女の子にダイエットしてる?なんて聞くのがセクハラじゃなければなんだっての!」 京介「え? そーなの?」 桐乃「本っ当にデリカシー無いわね、アンタ。エロゲの主人公なら鈍感で済むけど現実はエロゲとは違うのよ? アンタみたいなのが事件起こして社会にオタクへの偏見を広めんだからさー、コッチはたまったもんじゃないわ」 京介「ひでぇ……そこまで言う……? つーか妹じゃん。妹の心配しただけじゃん」 桐乃「し、心配……はっ、馬鹿じゃない! 妹が女の子じゃないってワケ? 妹の漢字書ける? ちゃんと女って漢字が付いてるでしょうが! 小学生からやり直してきたら? だいたい、妹だから女の子じゃないって発想自体がデリカシーないの! ウザッ」 京介「やめて! もう俺のライフはゼロよ!!」 桐乃「……まあいいわ。アンタ、なんでそんな質問したワケ? そんなにあたしの身体に興味あるの? キモッ」 京介「違っ…いや、違わないけど、その言い方はニュアンスが違う!! いやさ、学校で赤城がいうには瀬菜がダイエット中で飯あんま食わなくて心配なんだとさ。 よく言うじゃん、無理なダイエットは身体に悪いって。お前もそういう無理なダイエットしてねぇだろうな?」 桐乃「してるよ? ダイエット」 京介「そうか、してないか。なら安し……してんの?!」 桐乃「ダイエットっていうか体型維持だけど。だってあたしモデルなんだから あたしがプロポーション崩したら色んな人が迷惑するじゃん。そんなのヤダし?」 京介「他人の迷惑考えて自分の体調崩したら駄目だろーが!!」 桐乃「ちょっ……掴まないでよ馬鹿!! 何勘違いしてんの! ウザッ あたしが食事制限して空腹に耐えてる姿、あんたみたことあんの!?」 京介「……そういや無いな。お菓子もボリボリ食ってるし」 桐乃「ボリボリは食べてない! ……そりゃ、カロリーとか栄養素とかは気を使ってるけどさ あたしは基本的には食べないで我慢するより、食べた分運動するタイプ。 そっちの方がプロポーション維持できるし。それに陸上もやってるんだから、筋肉だって無いと困るし」 京介「あーなるほど。確かに考えてみりゃそうだよな……スマン、変なこと聞いた」 桐乃「わ、わかればいいのよ。まあ今回はあたしの事心配して聞いてくれたみたいだし? と、特別にゆるしてあげる ……ただし条件付きで」 京介「げ……ちっ、仕方ないか。んで、条件ってなんだ? 新しいゲームでも徹夜して買えばいいのか?」 桐乃「そんなの条件つけなくても買わせにいかせてあげるって」 京介「オイ待てコラ……」 桐乃「……あたしのダイエットに付き合いなさいよ。あんたも毎日エロゲばっかりで不健康なのは良くないしさ」 京介「エロゲやらせてるのはお前だけどね? 俺の睡眠不足はお前のせいだけどね?」 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 京介「ゼーハー……ゼーハー……」 桐乃「ダサ……軽くジョギングしただけでコレ?」 京介「うるせぇ、普段からやってないからペース配分がわかんねーんだよ!」 桐乃「あーもう! 近寄んないでよ、汗くさいんだからさ! いいわ、アンタ先にシャワー浴びてきなさい あたしは部屋にいるから。あがったら呼んで。あたしだって汗くさいのイヤなんだからね」 ガチャ 桐乃「……あ、あ、兄貴ジャージ汗だく大盛りゲットォォォォォーーーーー!!! スンスン……の、濃厚ゥゥゥ……ヤバイよ、コレ、ヤバイ!! も、もしかしてコレ、絞ったら出るんじゃない? 兄汁出ちゃうんじゃない?! 妹の身体心配でセクハラしちゃうシスコン変態兄貴の汁出ちゃう!? アイツって本当に最低ー。妹にセクハラするとか信じらんない! キモ! キモ! キモ! 妹があたしじゃなけりゃ、網走刑務所行きじゃん。 ……ま、まあ悪意はないワケだし、秋田刑務所ぐらいにしてやってもいいケドさ。 も、もしこの先セクハラをあたし以外にしないってんなら、青森刑務所まで下げてやってもいい。 で、でもアイツはシスコンだからあたしがいないと死んじゃうよね? 妹摂取量激減で禁断症状でて脱走しちゃうでしょ? 兄貴あたしの為に脱走しちゃう! 績静房破っちゃう! 完全に社会敵にした! 妹愛しちゃうだけでも社会敵にしてるのに、脱獄してあたし誘拐するとか犯罪者ッ! 犯しちゃた、兄貴、罪を犯しちゃった、兄貴妹を犯しちゃった、もっと犯して!! ……スンスン……はぁあぁぁ……兄貴ダイエットくりゅぅぅぅ…… あたしのプロポーション維持の秘訣は兄貴の臭いぃぃ…… 兄貴の臭い吸ってぇ、超汗かくのぉ。くんかくんかの運動量ハンパじゃないのぉ! 今日は兄貴の協力で運動量激増ッ! 兄貴、妹の脂肪燃やしまくり! 変態、変態、兄貴マジ変態ッ! 普通妹の脂肪燃やす? 脂肪って身体の中にあんのよ? つまり兄貴妹の身体の中から燃やしてる。 妹の身体、内側から兄貴に制圧されちゃってる! ファイヤー兄貴あたしの頭まで溶かしちゃうっ!! ……スンスン……はぁあぁぁアニキ式で脂肪燃焼ッ! フットーするぅぅ……あたし沸騰しちゃてるぅ…… 兄貴の圧倒的な臭いに沸騰して真っ当に考えられないぃぃぃ!! ジョギングしてて兄貴身体、上下に動いてるしぃ……はあ、なんであたしの身体の上で上下運動しないワケ? 外走って汗かくより、妹で汗かくほうが先じゃない! あーキモッ! 兄筋肉が脳まで詰まってるだ、きっと。 だいたいさー、あたしが食事ダイエットしてないのだってあたしみてれば分かるじゃん。きもっ あたしの食事姿みてないの? あたしがちくわとかバナナとか食べる姿みて興奮しないの? それでシスコンって言えるワケ? マジでシスコン失格。失格、失格、失格、ネクロダイバー あたしは兄貴の箸の使い方から、おかずの順番まで逐一チェックしてんのに! 早くあたしをオカズにしちゃいなさいよ!」
https://w.atwiki.jp/orenoimoutoga/pages/156.html
その日もあたしは、いつものように退屈な授業をぼんやりと聞いていた。 自分で言うのも何だけど、あたしって要領がいいから、授業でやる範囲なんて 教科書を読むだけで自然と頭に入っちゃうんだよね。 だからかったるくて授業なんて聞いてられないってワケ。 そんなあたしが何の気なしに机の中に手を入れると、 そこには覚えの無い、薄く、でもしっかりとした硬い手触りのノートが入っていた。 (あれっ?こんなノート持ってたっけ?) 取り出してみると、表紙は真っ黒で、英語のタイトルらしきものが書かれている。 (「DERE NOTE」? デレ……ノートって読むのかな?) 誰かがあたしの机に入れたのだろうか? 周囲を見回してみたけど、周りのみんなは正面の教師へ視線を送っていて、 あたしの行動には気づいていないようだった。 ちょっと気味が悪い気もしたけれど、とりあえず表紙を一枚めくってみる。 するとその裏には、小さな文字でなにやら書いてあった。 (ええっと…… 「HOW TO USE」? 使い方ってことかな?) そこには小さな文字で、以下のようなことが書き連ねられていた。 ・このノートに名前を書かれた人間は、指定した人物に対しデレデレになる ・デレ対象を省略した場合は、ノートに書き込んだ当人がデレ対象となる ・書く人物の顔が頭に入っていないと効果はない ゆえに同姓同名の人物に一遍に効果は得られない ・このノートは人間界の地に着いた時点から人間界の物となる ・所有者はノートの元の持ち主であるデレ神の姿や声を認知する事ができる ・デレノートを持っている限り、自分が誰かにデレるまで元持ち主であるデレ神が憑いてまわる あまりにも馬鹿馬鹿しくて、あたしはぷっと吹き出してしまった。 (へぇ~ なかなか凝ったイタズラじゃない) 誰が用意したのかわからないけど、こういうのはノリ良く応えないとねっ! ってことで、あたしはシャーペンを握ると、真っ白なページの一番上の欄に構えた。 (うーん、誰の名前を書くべきなのかなぁ?) っていうか、こんなイタズラ仕掛けるのって、ぶっちゃけあの子しか考えられないんだけどさ。 (「来栖加奈子」っと) あたしはイタズラ犯である可能性が最も高い、加奈子の名前を書いてみた。 へへっ、これでネタばらしされた時に、「ふふーん、あんたの仕業だってお見通しだよっ」 ってやりかえせるよね。 あたしは名前を書き終えると、ふと加奈子の席の方を見てみた。 あれっ、気のせいか加奈子がぼんやりしてるように見えるかも? 眠いのかな?でもそれにしちゃ頬が妙に紅いし…… 休憩時間―― さぁ、加奈子がネタばらしをしにくるのかな? あたしはニヤニヤしながら様子を窺っていたんだけど、加奈子は相変わらず頬を染めたまま こっちをチラチラと見るだけだった。 それはまるで恋する乙女の仕草だ……もしかしてそれでデレてる振りしてんの? めんどくさくなったあたしは、加奈子の席へ向かい、こちらからネタばらしを要求してみた。 「加奈子ぉ、そんな演技したってとっくにバレてるんだってば。まったく……」 「えっ、あっ、桐乃……」 加奈子は目を合わそうとせず、耳まで真っ赤にして俯いている。 「もう~~、加奈子ってば!」ポンッ あたしはちょっとイラついて、加奈子の肩を軽く押した。 すると加奈子は、あたしの手の上にスッと自分の手を重ね、潤んだ上目遣いの瞳で あたしを見つめてきた。 「えっ? 加奈子……?」 なに?なんなのこの反応は?? これも演技なの?でも演技にしちゃ随分と真実味があるような。 「そ、そろそろ次の授業が始まるねっ! じゃ!」 あたしは慌てて加奈子から離れると、自席へと戻った。 まさか……まさかね……。 ま、そんなやり取りがあった後でも、あたしはこんなノートのことなんて これっぽっちも信じて無かったんだけどさ、 その認識は放課後にあっさりと覆されてしまった。 あの後、ちょっと興味が湧いたあたしは、あやせの名前もノートに書いてみたの。 加奈子のイタズラだとしても、あやせまで加担してるってことは性格的に考えにくいし、 むしろあやせはそういう下らないことを嗜める側の人間だから。 そう思ってたんだけど―― ホームルームが終わった瞬間、あたしが見た光景は、 こちら目掛けて土煙を上げ猛突進してくるあやせと加奈子の二人の姿だった。 「桐乃っ!わたしと一緒に帰ろ!!」 「桐乃ぉぉぉ!加奈子と帰ろうぜっ!!」 二人はそれぞれあたしの腕をつかむと、思いっきり左右に引っ張り始めた。 ちょっ!待って!痛いってば!二人とも本気で引っ張ってるし! 「桐乃はわたしとかーえーるーのー」 「ちげーよ!!加奈子と一緒に帰るんだってばー!!」 なんか昔の話でこういうのがあった気がする……ううん、そんなこと言ってる場合じゃない! 「ちょ、ちょっと……もう、二人ともやめてってば!!」 そう一喝すると、二人はそれぞれ同時に手を離し、あたしはその弾みで尻餅をついてしまった。 そんなあたしの様子を見て、あやせは満面の笑みを浮かべて抱きついてくる。 「急に手を離されて転んじゃう桐乃、すっごく可愛いいいいい!」 「あっ、ずるいぞあやせ!加奈子にも抱かせろって!」 だからやめてってば……みんな見てるし。 教室中の注目を集めちゃってるよ…… っていうかマジだ―― このノートは本物だったんだ!! 下校中も二人はベタベタしっぱなしだった。 左にあやせ、右に加奈子と、それぞれに腕を絡められ、どちらも身体を密着させている状態で、 すれ違う人たちから変な目で見られちゃったよ…… あたしは家の前まで二人に送ってもらう形になり、ようやくそこで一人になることができた。 ホントは二人とも家に寄っていこうとしてたみたいだったんだけど、 このベタベタ状態に耐えられなくなったあたしが必死にお願いして帰ってもらったってワケ。 家に入ると人の気配はなく、まだ両親も兄貴も帰っていなかった。 あたしは自分の部屋に入ると、ドアの鍵を閉め、カバンからあのノートを取り出す。 「デレノート……すごいわ……」 ふふ……ふふ…… 思わず笑みがこぼれる。 その時、突如背後から人の声がした。 『――気に入っているようだな』 驚いたあたしが振り返ると、 そこには長身の黒ずくめで、頬まで口が裂けた異形の怪物が立っていた―― 「きゃああああああああ!! だ、誰!? いつの間に入ったの!?」 驚いて椅子から滑り落ちたあたしを見下ろしながら、怪物はニヤリと笑った。 「そんなに驚くな。デレノートの持ち主、デレ神のリュークだ」 「デ……デレ神?」 「ああ、ノートにも書いてあったろ。人間をデレさせる神、それが俺だ」 デレ神……そんなのがホントに存在したなんて! あたしは椅子にしがみつきながら身体を起こし、リュークとやらに問い掛けた。 「そのデレ神が……なぜあたしにこんなノートを授けたのよ?」 「ははは、退屈だったからな」 「退屈って……それだけで?」 「それにお前の周りにはツン気質の奴が多そうだし、デレノートの所有者として適任だと思ってな」 そう言うと、デレ神はククッと下卑た笑みを見せた。 そんなわけで、デレ神リュークはあたしに取り憑くことになってしまった。 そして、どうやらこいつの姿はあたしにしか見えないらしい。 その日の夜、家族が揃う食事のときもリュークは堂々と付いてきたので あたしは一人で大慌てだったんだけど、こんな気味の悪い怪物がいるというのに、 お父さんもお母さんも兄貴も、誰一人反応しなかった。 仮にも“神”を名乗ってるわけだもんね。伊達じゃなかったみたい。 まぁそれでも、部屋でもリビングでも常に一緒に居るので、正直言ってウザくてしょうがなかった。 だけど、リュークの話す声もあたし以外の人には聞こえないようだし、 無視してれば静かにしてる奴なので、徐々に気にならなくなってきたけどさ。 だけど、さすがにお風呂のときは困っちゃったよ。 「アンタさぁ、もしかしてお風呂にまで付いてくる気?」 『……基本的にそういうシステムだからな』 「あり得ないでしょ!? 女子中学生のお風呂に侵入だなんて、即通報モノだって!」 『そもそも俺は人間の裸を見たところで、なにも感じないんだがな……』 と、リュークはしれっと言ってたけど、 色々と検証してみたところ、数メートル程度は普通に離れていられることが判ったので、 お風呂のときは浴室の外の洗面所に待たせることにした。 ……こいつ、なにが「人間の裸を見たところで、なにも感じない」よ。 油断も隙もあったもんじゃないわ。 「ところでさぁ……リューク、ちょっと聞きたいんだけど」 あたしは浴槽につかりながら、ドアの向こうに居るリュークに問い掛けた。 『……なんだ?』 リュークは少し遅れて返事をする。ってか、こいつ外で何して待ってるんだろう? まさかあたしの下着をくんかくんかしてんじゃないでしょうね。 「あのさ、このデレノートの効果って、いつまで続くの?」 『さぁな、俺は気にしたことが無いからな』 「あんたがノートの所有者だったってことは、あんたも誰かの名前を書いたりしてたんだよね?」 『ああ、書いていた。しかしお前が手にしたノートは、厳密には俺のノートじゃないんだがな。 それは他のデレ神のノートを俺が盗んだものだ』 えっ、デレ神ってこいつ以外にもいるの? 『俺たちデレ神は基本的に一人一冊のノートを持っていて、そこに人間どもの名前を書き、 デレてキャッキャウフフしてる様子を見ることを、生きる糧としているんだ』 「ずいぶんなご趣味ね……」 『だから、人間にデレノートを与えて遊ぶには、自分用とは別にノートを手に入れる必要があるんだ』 こいつの付き合いで分かってきたことは、おっかない風貌の割に案外おしゃべりだということだ。 なので聞いてないことまでペラペラとしゃべってしまう。 「あたし、クラスメイト二人の名前を書いたんだけど、今後もデレられることになっちゃうのかなぁ」 『そいつらキモい奴らなのか? ククク……だとしたらお前にとっては苦痛だな』 「ちょっとぉ!あやせと加奈子はキモいどころか、二人とも美少女でモデルまでやってるっつーの!」 そう反論したところで、あたしはハッと気づいた。 そういえば、今日は二人の豹変ぶりに思わずドン引きしてしまったけど、 よくよく考えたら、あの美少女二人にデレられ放題ってすっごいご褒美じゃん。 「……そっか、デレノートの使い道ってそういうことなのね」 このノートを使うことで他人の好意を意のままに操ることができる―― あたしって美人だし友達も多いから、その手の願望ってあんまりなかったんだよね。 こんな当たり前のことに今更気づいてしまった。 それに、デレられてる優位を上手く利用すれば、あの二人をあたしの趣味に引き込めるかも? 加奈子にメルちゃんコスプレをさせたり、あやせには……アルちゃんコスかな? 二人に対決シーンを再現してもらったり……うへへ、夢がひろがりんぐ…… あたしはニヤけ顔を隠すように口元まで湯船に沈めると、しばし妄想の世界に浸った。 『(ククク……人間って面白っ!)』 こうしてデレノートの使い手となったあたしは、この力を存分に活用することにした。 具体的に何をしたのかって言うと―― 誰が見ても互いに好き合ってるのに、なかなかくっつかないイライラする子達っているじゃん? あたしのクラスにもさぁ、そういうのが何組かいたんだけど、 そういう男女をお互いデレ合うように片っ端から名前を書いてやったってワケ。 そんでカップル一丁あがり。 最初は自分のクラスだけだったけど、そのうち隣のクラス、次第に三年生全体に範囲を広げて どんどんカップルを作ってやったの。 おかげであたしたち三年生のフロアは、なんとなくピンクの雰囲気になっちゃった。 学校内でも、急に交際を始めた男女が増えたんじゃないかって、次第に噂になってきてるみたい。 これヤバイわ、やり始めたら楽しくて止まらなくなっちゃう…… あたしって、まるで恋のキューピッドだよね。 「「桐乃~~ 一緒に帰ろっ」」 あれから一週間が経ったけど、あやせと加奈子は相変わらずあたしにデレデレしっぱなしだ。 嫌なわけじゃないけど、いつまでこの状態が続くのかなと、ちょっと心配になる。 三人イチャつきながら下校するのにだんだん慣れてきてしまった自分が怖いわ……。 そんなことを考えながら歩いていると、いつもの曲がり角で、同じく下校中の兄貴に遭遇した。 いや、正確には兄貴と地味子だ―― 「……!」 「よう、桐乃……って、なんか妙にベタベタしてるなお前ら」 「うっさいわね!あんたに関係ないでしょ」 あたしはキッと睨み付けると、二人を追い越し早足で家路を急いだ。 「ああん、桐乃ぉぉ、置いてくなよ~~」 「桐乃、待ってってば~~~」 加奈子とあやせが慌てて追いかけてくる。 ふんっ、いつもいつもベタベタしちゃって。キモいんだってば、馬鹿兄貴。 思えばあたしが物心ついたときから、兄貴の隣にはあの女がいたような気がする。 兄貴も、なんであんな地味でスタイルもイマイチな冴えない女と一緒に居るんだか。 メガネっ娘好きなのは知ってるけど、ちょっと趣味悪すぎるんじゃないの? もしデレノートに、地味子が別の男にデレるように書いたら、あの二人の関係は壊れるかな? ムカつくからやってやろうかしら。 それとも、兄貴の方を、地味子じゃない他の誰かにデレるようにしちゃうとかさ。 たとえば……あたしとか? そんな考えをめぐらせた瞬間、顔がかっと熱くなるのを感じた。 うわああ!キモっ!あたしキモい!とんでもないことを想像してしまった。 ありえないってそんな状況。あの死んだ魚の目のような兄貴があたしにデレてくるなんて…… でもこのノートがあれば、そんな状況も作り出せちゃうのよね。 そう考えたとき、あたしは初めてこのノートの力に薄気味悪さを感じた。 夕食後―― あたしはさっさと自分の部屋に戻ると、パソコンの電源を入れた。 ブラウザを立ち上げ、ブックマークの中からあるサイトを開く。 「リューク、ちょっとこれ見てみてよ」 『うん?何だそのサイトは』 あたしが開いて見せたのは、うちの中学校のいわゆる“裏サイト”。 誰が作ったのかは分からないけど、おそらくほとんどの生徒が知ってるサイトで、 学校に関するあらゆる情報交換が行われている。 「ここの掲示板にいろんな書き込みがあるんだけど――あった、このスレッド」 男女交際について語られてるそのスレッドのタイトルをクリックすると、 そこには最近の校内カップル急増についての報告や意見が書かれていた。 507 :学校の名無しさん:2011/01/26(水) 18 38 07 3年B組の○田と△藤、あいつらが付き合うとは思わなかった どう考えても釣り合ってねえしwww 508 :学校の名無しさん:2011/01/26(水) 19 09 17 うちのクラスも急に付き合い始める奴ら大杉。ベタベタしてキモイ 509 :学校の名無しさん:2011/01/26(水) 19 20 20 うちもだぜ 異様 510 :学校の名無しさん:2011/01/26(水) 20 01 20 他所もかよw 511 :学校の名無しさん:2011/01/26(水) 20 19 44 それって3年ばかりでしょ? 高校受験なのになに考えてんのかね 512 :学校の名無しさん:2011/01/26(水) 20 29 53 リア充爆発しろ 513 :学校の名無しさん:2011/01/26(水) 21 11 12 てか最近付き合い始めたやつらってなんか怖くね? 催眠術にでもかかってるかのように、目がイッちゃってるもん リュークはあたしの肩越しにパソコンのモニタを眺めてる。 『なんだかあまり反応が良くないじゃないか。キューピッド気取ってたのに残念だったな』 「別にぃ~。ここに書いてる奴らは当事者じゃないからでしょ。非モテがひがんでるのよ」 あたしはモニタを見つめたままで答えた。 リュークは頬まで裂けた口元をさらに吊り上げ、クククと嫌な笑いを浮かべている。 『で、この掲示板がどうかしたのか?』 「ふふふ、よくぞ聞いてくれました」 あたしは椅子をくるっと回し、腕組みをしてリュークと向き合った。 「実は、くっつける男女のストックがそろそろなくなってきたから、ここで情報集めようかなって思って。 それにあたしが手を出してない、他の学年にも恋のキューピッド様が降臨しないと不公平だしね」 『へぇ~ そういうものなのか』 あたしはニヤリと笑い、またパソコンに向かい直すと、投稿フォームを開いてキーを叩き始めた。 名前: メルちゃん♪ E-mail: sage 内容: 最近カップルが増えたのは、あたしが恋の魔法でくっつけたからだよ~ん 他にもカップルにしたい男女がいたら名前を教えてよね(*´∀`*) 写真があればなお良しだよ♪ (・ω<)キラッ☆彡 「よーし、これで書き込みっと」 『……お前、ネット上ではこういうキャラなのか?』 「はぁ?なんか文句あるの?」 『いや……ないけど』 あたしは意気揚々と投稿ボタンをクリックした。 さすがに身元を明かすのはヤバいし、その点ネットの掲示板って便利な場所よね。 自分の書き込みが掲示板に反映されたことを確認すると、あたしはいつもより早めにベッドに入った。 明日の朝、少し早く起きてレスをチェックしよっと。 翌朝―― いつもより一時間早く起きたあたしは、パソコンの電源を入れて早速スレッドをチェックした。 ふふふ、みんなどんな反応してるかな…… 520 :メルちゃん♪:2011/01/26(水) 21 41 01 最近カップルが増えたのは、あたしが恋の魔法でくっつけたからだよ~ん 他にもカップルにしたい男女がいたら名前を教えてよね(*´∀`*) 写真があればなお良しだよ♪ (・ω<)キラッ☆彡 521 :学校の名無しさん:2011/01/26(水) 21 46 53 D組の○山と◇岡も付き合い始めたってさ 522 :学校の名無しさん:2011/01/26(水) 22 00 21 カポーうぜえええええ 523 :学校の名無しさん:2011/01/26(水) 22 16 20 校内で所構わずいちゃらぶするのはマジやめて欲しい 524 :学校の名無しさん:2011/01/26(水) 23 31 52 520 キチガイ乙です 525 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 00 40 13 みんな卒業してからにすりゃいいのにね 思わずキーボードを両手で殴りつけ、あたしは叫んだ。 「ちょっとぉ!!なんでスルーされてる上にキチガイ認定レスだけなのよっ!?」 『俺に言われても知らねえって……』 あたしの大声で目を覚ましたのか、隣の部屋から壁越しに「うるせえぞ!」の罵声が聞こえてきた。 チッ、こっちは大事なところなのよ? ああ、ウザいウザい。 「こうなったら、やっぱりあたしの力を実証して見せるしかないわね」 幸い、カップル候補のストックが一組だけ残っていた。 あたしは再び投稿フォームを開き、静かにキーを叩き始める。 名前: メルちゃん♪ E-mail: sage 内容: ちょwwwお前ら無視すんなしwwwwwwwww しょうがないから、今から3年C組の○村くんと△川さんをカップル化してやんよ これであたしの力を信じなさいよ! (・ω<)キラッ☆彡 投稿を終えると、あたしはデレノートに○村くんと△川さんを互いにデレるよう書き込んだ。 これで準備完了。 さぁ、しっかり見てなさいよ、非モテの連中どもめ! 学校に着くと、3年C組の教室の前には人だかりができていた。 三年生が多いけど、二年生や一年生も混じっているようだ。 あたしは人だかりに近づくと、その中にあやせの姿を見つけた。 「おっはよ、あやせ。どうしたのこれ?」 「あっ、おはよう桐乃~♪」 あやせはあたしの手を両手で握り、頬を染め、上目遣いで見つめてきた。 いや、今はそういうのはいいから…… あたしは手を振りほどくと、人だかりを指差して、あやせに回答するよう促した。 「うーん、なんかね。C組の○村くんと△川さんが急にラブラブになっちゃったみたい」 ああ、なるほどね。 そりゃあたしがさっきデレノートに書いたから、当然の結果なんだけどさ。 周りを見回すと、皆は教室の中に視線が釘付けになっていて、その視線の先には、 見事に相思相デレ状態となった○村くんと△川さんの二人の姿があった。 昨日まではそんな素振りを見せてなかった二人のデレデレぶりに、辺りは騒然としている。 「――あの書き込みは本当だったのかよ」 人だかりの中の誰かがそう呟いた。 その声を受けて、また別の誰かが聞き返す。 「書き込みってなんだよ?」 「今朝、あの二人をカップルにするって予告があったんだよ。うちの学校の裏サイトに!」 「それどころか、最近カップルが異様に増えてるのは、そいつの仕業らしいぜ」 キ、キ、キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!! これよ、これ!あたしが求めていた展開になってきた! ようやくあたしという恋のキューピッドの存在に気付いたようね! 「カップルにするって……どうやって??」 「知らねーけど、恋の魔法がなんとかって書いてあった」 「……お前、マジで言ってんのかよ?」 「じゃあ、あれをどう説明するんだよ!急にあんな状態になっちまってるんだぜ!?」 喧喧囂囂の言い合いが続き、その周りの人達も戸惑いながらやり取りを見守っている。 しばらくすると、ざわめきを掻き消すように予鈴が鳴って、皆それぞれの教室に戻り始めた。 「いいから、お前らも裏サイト見てみろって!携帯からでも見れるだろ」 散り際に聞こえてきた声に、みんな携帯を取り出して一斉に操作を始めている。 あたしはニヤニヤを抑えるのに必死だった。 その日、校内は一日中、裏サイトの掲示板の話題で持ちきりだった。 教室に居ても、耳を澄ませばいつでも裏サイトについて話す誰かの声が聞こえてくる。 でも、まだみんな半信半疑のようで、あたしの書き込みを単純に信じる人もいれば、 トリックがあると疑っている人もいて、受け止め方はまさに人それぞれみたい。 中には、カップルになった二人による自作自演じゃないかって説を唱える人もいたらしい。 とはいえ、当人達を問い詰めてもデレ状態の二人では要領を得ないし、演技とは思えない 二人の豹変っぷりは、あの書き込みに信憑性を持たせるのに十分だったようだ。 唯一真実を知るあたしは、そんな周囲の喧騒に対して言い知れぬ優越感に浸っていた。 ネットの世界に舞い降りた、愛を結ぶ謎のキューピッド……嗚呼、カッコよすぎるわ。 「桐乃?……なんだか今日はずいぶんご機嫌だね」 「そ、そんなことないってば、あやせ」 いかんいかん、ついつい表情がニヤけてしまうわ。 ただね、想定外なことがひとつだけあってさ―― あ、ホラ、今またクラスの男子が噂話してるんだけど…… 「掲示板のあいつ、スゲーよなぁ」 「俺はあんなの信じないけどな。えっと、なんて奴だったっけ?」 「ええっと……なんだったっけ……?」 だから“メルちゃん”だってば。名前欄に書いてたでしょ! あたしは恋の呪文を使う、魔法少女メルルだよっ☆ 「ああ、たしかキラッとかいう……」 「あっ!そうだそうだ、キラッだよ!」 ノオオオオオオ! 違うっ!そこじゃないってば! 確かにそれも書いたけど、それは単にメルルの歌の合の手で、キメ台詞的に書いただけなんだって。 そんなあたしの心の叫びが届くはずもなく、裏サイトの謎のキューピッドの呼び名は、 みんなの間であっという間に“キラッ”で定着してしまったようだ。 「キラッって、一体どんな奴なんだろうなぁ~」 「だからヤラセだって!キラッなんてあり得ないって」 ……ああ、もういいわ。キラッでいいわよ。 学校が終わり、あたしは足早に帰宅すると、着替えるよりも早くパソコンの電源を入れた。 裏サイトにアクセスして例のスレッドを開くと、今朝までの寂れようとは打って変わり、 あたしの書き込みに対するレスが並んでいる。 どうやら皆、待ちきれずに学校から携帯使って書き込んだみたいね。 ふふっ、こうじゃなくっちゃ。 530 :メルちゃん♪:2011/01/27(木) 06 41 11 ちょwwwお前ら無視すんなしwwwwwwwww しょうがないから、今から3年C組の○村くんと△川さんをカップル化してやんよ これであたしの力を信じなさいよ! (・ω<)キラッ☆彡 531 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 09 21 17 うおおおお!マジだ!!!!! ○村と△川が急にベタベタになってた!!!! 532 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 09 31 52 おいおい、俺も見てきたぞ どういうことだってばよ・・・? 533 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 10 02 09 記念パピコ 534 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 10 50 18 530 なんでカップルになるって分かった? 535 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 11 01 32 え?これどういうこと? 意味が分からない… 536 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 11 03 47 530 リクエストしたら他の人もカップルになるのか? 537 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 12 15 23 キラッの人! 2年A組の川上哲也と末永康子をカップルにしてください! 538 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 12 45 03 キラッの人って誰なの? 539 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 12 47 37 はいはい ヤラセ乙 540 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 12 55 30 ここに名前を書いたらカップルにしてくれるの?>キラッ 541 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 13 02 09 なにそれこわい 542 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 13 11 20 キラッ様! 3年E組の本山哲と石田可奈をカップルにするの希望します 543 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 13 21 22 記念真紀子 544 :学校の名無しさん:2011/01/27(木) 13 29 01 530 お前誰なんだよ? 『ククク……すっかり話題の中心になってるじゃないか』 リュークも興味深げにモニタに映し出された掲示板を眺めている。 「ホラ見て、結構カップル化のリクエストがきてるよ」 でも、さすがに写真まで載せている書き込みは無いので、 どうやらあたしが実際に調べて、当人の顔を見に行かなければいけないようだ。 この辺がデレノートの不便なところよね。 とりあえずあたしは掲示板に書かれていた何組かの学年・組・名前をメモに控えて、 手帳に挟んでおいた。 さっそく明日顔を見に行って、デレノートに名前を書いてあげよっと。 その日を境に、裏サイトにある恋愛スレッドは、キラッ専用スレッドと化した。 あたしは毎晩スレッドの書き込みをチェックし、カップル化の要望があればデレノートに書き、 カップルを作ってみんなの反応を楽しむことを日課にしていた。 顔が分からないときは仕方ないので教室まで行って確かめていたけれど、 最近では顔写真付きで依頼するルールが浸透したおかげで、あたしの手間は随分少なくなり、 ますますカップル作りは加速した。 “目指せ人類総カップル化”ってとこね。このノートがあれば少子化も怖くないわ。 『ククク……毎日カップル作りに精が出るじゃないか』 「あったりまえじゃん。あたしは恋のキューピッド“キラッ”なんだからね」 『たが気を付けろよ。カップルになった奴等はノートの力で能天気にデレてるからいいが、 身近な人間のカップル化を快く思わない奴もいる』 リュークは不敵な笑みを浮かべている。 『カップルになった二人を妬む奴、想いを寄せてた相手を取られた奴、そんな奴等も居るってことだ。 そういう奴等にお前の正体がバレたら大変なことになるだろうな…… ククク……』 「あたしはそんなヘマしないって。だからネットを利用してるんじゃん」 こいつってデレ神なんて恥ずかしい神様やってるくせに、結構性格が悪いんだよね。 でも、キラッの正体があたしだとバレると、色々と面倒なことになるのは確かだ。 用心のためにノートは部屋から持ち出さないようにしているし、普段は家族にも内緒にしている あたしのコレクション置き場の一番奥に隠してあるので、バレる可能性は無いとは思うけど。 「ってか、万一バレたところで別に犯罪やってるワケじゃないしね。 それに名前を書くだけでデレデレにさせられるノートだなんて、誰も信じないよ」 『だが、デレノートに触った人間には俺の姿が見えてしまう。 そうなれば否応なく、人智を超えた力を宿すノートだと知ることになるがな』 あっ、そうか。それはそうかも。 確かに他の誰かにこのおぞましい姿のデレ神を見られたら、ちょっと言い訳できそうにない。 それは今まで以上に用心しないとね……。 だけど、そう思っていた矢先にトラブルは起きてしまった―― 写真と名前さえあれば誰でもカップルになれる、という評判が評判を呼んで、 学校の裏サイトには、あたしの学校以外の、近所の中学校や高校からも書き込みが 集まるようになっていた。 あたしの知らないところで、キラッのウワサはどんどん広がっていたみたい。 ただ、困ったことがあって…… 以前は写真なしで依頼がくることばかりだったので、実際に顔を確認しに行くついでに、 カップルにして大丈夫かどうかの妥当性ってやつを一応判断するようにしてたんだよね。 二人の雰囲気とか、釣り合うかどうかとか、まぁ、あたしの勘によるところが大きいんだけどさ。 あからさまなイタズラは却下するようにしないと当人達が可哀想じゃん? でも、写真掲載がメインになってからは、その辺がちょっとテキトーになってしまってたの……。 そして、あたしがカップルにしたある一組について、こんなクレームの書き込みが寄せられてしまった。 341 :学校の名無しさん:2011/02/21(月) 18 12 21 おいおい、昨日カップルにされた○高の田端と大山はそれぞれ彼女・彼氏持ちだぞ? 明らかに誰かが嫌がらせで書いたんだから無効にしろよ!! 酷すぎるだろ! えええ、マジで~~? でも無効にしろっていわれても、そんな方法知らないっての。 「リューク、間違ってデレさせてしまった場合、もう一度書き直したら効果が上書きされるかな?」 『デレノートの効果は、一度発揮されたら変更は効かないし、取り消しもできない』 だよねぇ…… でも、そもそも全然知らない人達なんだから、恋人居るかどうかなんて分かりっこないし。 これって不可抗力じゃん。 そういうものだと思ってもらうしかないよね。 342 :(・ω<)キラッ☆彡:2011/02/21(火) 18 30 00 341 ありゃ、ごめんね~ まぁ、本人達は幸せになってるからもういいじゃん? なんなら余った者同士でくっつけてあげるからさ と、あまり深く考えずに書き込んだこのレスによって――スレッドは大荒れになってしまった。 “呪いの掲示板”って知っているかしら―― その日、文化祭の打ち合わせのため、久しぶりにゲーム研究会の部室に顔を出した俺は、 ふいに黒猫からそんなことを尋ねられた。 「呪いって……、なんだそりゃ?」 「いまネット上で話題になってる掲示板のことよ。 そこに顔と名前を晒されると、誰かと無理矢理カップルにさせられてしまうそうよ」 “呪いの○○”――実に使い古された、なんとも安っぽい表現だ。 くだらない怪談や都市伝説なんかに出てくる、こんなにもネタ臭さの漂うフレーズが他にあるだろうか。 だが、黒猫は少し頬を上気させ、目を輝かせている。 こいつがいわゆる“厨二設定”が好きなのは知ってるが、オカルト系も守備範囲だったっけ……? 「えっと、無理矢理カップルって……意味が分からないんだけど……」 「ウワサによると、不思議な力が働いて、ラブラブの色ボケ状態にさせられてしまうそうで、 まるで抜け殻のようになってしまうの。うちの学校にも被害者が居るらしいわ」 「……不思議な力って、そんなことあり得るのかよ」 どこから突っ込んだらいいんだよ。 と、俺が怪訝な表情を見せると、黒猫は深くため息をついて、呆れたような視線を返した。 「凡庸な人間風情には理解できないでしょうけど、これは古から伝わる魅了(チャーム)の呪い。 ――つまり闇世界の住人の仕業よ!」 なるほど、そっちに持っていくわけか……だから活き活きしてるんだな。 黒猫の言動に俺は今更驚きもしないが、近くで聞いていた瀬菜は顔をしかめつつ会話に入ってきた。 「五更さん、相変わらず痛々しい発言を振りまいているんですね」 「……ほっといて頂戴」 黒猫は瀬菜を一瞥すると、くるりと背中を向けてパソコンに向かった。 馴れた手付きでキーを叩き、なにやらウェブサイトを検索しているようだ。 「さぁ、御覧なさい。このサイトよ」 振り返って俺と瀬菜にモニタを見るよう促す黒猫は少し得意気だ。 俺達は黒猫の後ろからモニタを覗き込む。 そこにはどこかの学校に関する口コミ情報のサイト――いわゆる学校の裏サイトが映し出されていた。 「このサイトに、五更さんの言う“呪いの掲示板”とやらがあるんですか?」 「ええ、そうよ。近くの中学の裏サイトらしいけれど、今もここで呪いの儀式が執り行われているわ」 呪いってのは、五寸釘の藁人形とか魔方陣とか水晶玉とか、そういう演出が付くイメージなんだけど、 ネット上の掲示板でお手軽に呪いねぇ……これが時代ってやつだろうか…… 黒猫にバレないよう、俺は小さくため息を吐いた。 だけどその時、サイトのタイトルに書かれていた中学校の名前に、俺は見覚えがあることに気付いた。 「この中学校って……桐乃の通う学校じゃねーかよ」 「あら、そう言えばそうね。気付かなかったわ」 桐乃の奴、こんな変なウワサ話に巻き込まれてやしないだろうな――? まぁ、あいつのことだから、邪鬼眼乙の一言で片付けそうだけどさ。 「ええと、恋愛系の……あったわ。このスレッドだわ」 そう言うと、黒猫は掲示板の中の沢山のリンクテキストの中からあるスレッドをクリックする。 そこには罵詈雑言の嵐とも言うべき怒りのレスがあふれていた。 「なんだこりゃ……」 「これは呪いによって友人や恋人を奪われた者たちの叫びね。当初は好き合ってる同士のカップル化を 後押しするスレだったようだけど、そのうちイタズラや成りすましが横行して、 本人の意思とは関係なくデレさせられてしまう、恐ろしいスレになってしまったらしいわ」 「ええぇ……本当なんですかねぇ……」 「ほら、ここに書かれている名前と――そしてこのリンクは顔写真ね。これが呪いの依頼よ……フフフ」 俺と瀬菜は無言で顔を見合わせる。 うーむ……、黒猫が電波受信中なのは間違いないが、ここのスレッドの奴らも相当なモンだ。 一体どこまで本気でやってるんだろうか。 「そして、このふざけた名前の奴が呪い騒ぎを起こしている張本人よ」 黒猫がモニタ画面を指差すと、そこにはこの殺伐としたスレッドの流れにそぐわない 緩いテイストのコテハンによる書き込みがあった。 719 :(・ω<)キラッ☆彡:2011/02/28(月) 17 50 11 あんたたち、スレを荒らすんじゃないわよ! あたしは頼まれたからカップルにしてやっただけじゃん! 悔しかったらあんたたちも相手を見つけてここで依頼しなさいっての 「……なんだこいつは?」 「キラッと呼ばれてる、このスレの主。そして依頼を受けて魅了の呪いを掛けている者よ。 正体は明かしてないけれど、私同様、闇の眷属が人間の姿で世を忍んでいるのでしょうね」 そう呟く黒猫の瞳が怪しく光った……ような気がした。 黒猫ほど素直にスレのやり取りを受け入れられない俺は、正直どう反応をしたらいいのか分からなかった。 現実的に考えると、こういうやり取りをネタで楽しんでるスレッド、ってことなのかもしれない。 ただ、それにしては罵詈雑言のレスに切羽詰ったシリアスさを受けるんだよなぁ…… 「フッ、人間界に過度の干渉をしてはならないことは闇世界の住民の常識だというのに。 この所業、見過ごせないわね……」 そんな黒猫の言葉にツッコミを入れるよりも早く、部室には部長の声が響いた。 「おーい、そこ何やってんだ。 文化祭の打ち合わせを始めるからこっち集まれ~」 俺達は慌ててパソコン席から離れ、部員の輪の中に加わった。 そして、その日の“呪いの掲示板”話は、なんとなくそこでお終いになったんだ。 その日、帰宅して玄関のドアを開けた俺は、ちょうど二階に上がろうとしてた桐乃に遭遇した。 「ただいま」 「……ん、おかえり」 桐乃は素っ気なく挨拶を済ますと、足早に階段を昇っていく。 こいつは最近、メシとか風呂とかの時間以外は、ずっと自分の部屋に閉じこもってやがる。 新しいエロゲにでもハマってんのだろうか? 俺はいつものようにキッチンに向かうと、冷蔵庫から麦茶のパックを取り出してコップに注いだ。 桐乃が部屋に籠ってばかりのため、せっかく兄妹仲の改善がみられていた俺達は、 かつて冷戦状態だったときのように、会話を交わす回数が激減している。 まぁ、おかげで以前のように無理矢理エロゲやらされたりすることもなくなったので、 受験生の身としてはありがたいんだけどさ。 俺は麦茶を飲み干すと、階段を昇り自室へ向かった。 自室のドアノブに手をかけたところで、ふと桐乃の部屋の方を見た。 部屋からは忙しくキーボードを打つカチャカチャという音が聞こえてくる。 少し迷った後、俺は桐乃の部屋のドアをノックした。 「おい、桐乃ぉ――」 そう呼び掛けると、キーを叩く音が止んだ。 ほどなくして近づいてくる足音が聞こえ、勢いよくドアが開く。 俺はあらかじめ軌道に手を構え、ドアを受け止めた。いつもこのパターンで頭打ってるからな。 獲物を仕留め損ねた桐乃は、チッと舌打ちをして不機嫌そうなツラを見せた。 「何か用? あたし忙しいんだけど」 「いや、用ってほどじゃないんだけど……」 あれ?そういえば、なんでノックしたんだろ? 迂闊にも俺は、これといって用事もないのに桐乃を呼び出してしまった。 とりあえず何か言わなければ…… 「あー……えっと、最近お前っていつも部屋に篭ってるから、何やってんのかな~と思ってさ」 ああ、我ながらしょうもないことを言ってるぜ…… こんなこと聞いたって、桐乃の答えは決まりきってるじゃないか。 「別にあたしが何やってようが、アンタには関係ないでしょ?」 ほらね。そう返ってくると思ったよ。 俺は慌てて他の話題を探した。 「そ、そういえば、お前の学校の裏サイト?ってのが、いまウワサになってるらしいじゃねえか」 「へぇ~、あんたも知ってるんだ?」 苦し紛れに今日部室から聞いた“呪いの掲示板”の話を振ってみたところ、 予想外に桐乃は食い付いてきた。 「あのウワサってすごいでしょ~~?もうスレ見た?」 「ああ、俺にはスレの奴らがどこまでマジでやってんのか分かんねぇけど……」 「マジだって!実際にあたしの学校でカップルになった人達がいるんだから。 ネット上に存在する恋のキューピッド、すっごい素敵だと思わない!?」 どうやら桐乃は、あの掲示板のやり取りを信じきっているらしい。 この手の超常現象系には醒めた奴だと思ってたので、この反応は意外だった。 あれ?でも“恋のキューピッド”だと? そこは今日聞いた話とちょっとニュアンスが違うな。 黒猫曰く、あれは呪いらしいけど…… しかし、何となく今はそのことに触れない方がいいだろうという野生の勘が働いたので、 俺はあえて指摘しないことにした。 「ああ、そうだな。……でもお前、変なことに巻き込まれてないだろうな?」 「はぁ?なに言ってんのよ」 「いや、だって無理矢理誰かとカップルにされるんだろ?」 俺がそう言うと、桐乃はいきなり目を輝かせ、嬉しそうにコケにしてきた。 「えっ? アンタ、あたしが誰かと付き合っちゃうと思って心配してんの?うひゃーキモキモ」 取り繕って出てきた話題ではあるけど、兄として一応心配して言ってやってんのにこの反応だよ。 ってか、“呪いの掲示板”を信じるのお前の方が不安がるべきじゃねーのか。 「安心しなって、あたしこれでも身持ちが固いからさ」 桐乃は馬鹿にしたように笑いながらそう言うと、俺が反応するよりも先にドアを閉めた。 そりゃ俺だって、こいつが誰かとどうこうなるとは思っちゃいないけどさ。 まぁ、こんなやり取りでも、随分久しぶりに兄妹でまともに会話を交わした気がするよ。 しかし、“呪いの掲示板”の話はまだ続いた―― 次の休日、俺は意外な人物からの呼び出しを受け、とある喫茶店に来ていた。 「マネージャーさん、お休みの日に突然呼び出したりしてすみません」 「いや、別に用事もなかったし、気にしなくてもいいぜ」 そう、俺をここに呼び出したのは、以前メルルのコスプレイベントで知り合った 英国人のブリジット・エバンスという美少女だ。 俺は加奈子のマネージャーとしてイベントに参加していたんだけど、メルルコスプレの常連である ブリジットとも見知った間柄になっていた。 この前日、ブリジットから相談事があるとのメールが届いたので、こうして会ってるわけだ。 俺達に共通事項はそう多くないので、おそらく加奈子絡みなんじゃないかと予想しているんだが。 「で、相談ってなんなんだ?」 「はい、実はかなかなちゃんのことで……」 どうやら俺の予想は当たっていたらしい。 「最近、かなかなちゃんの様子がおかしいんです」 「あいつが色んな意味でおかしいのは以前からだと思うけど――」 と、言ったところでブリジットはキッとこちらを睨み付け、俺は思わず肩をすくめた。 こいつ、ホントに加奈子のこと慕ってるんだな…… 「まじめな話なんです。最近いつもボーっとしてて、心ここにあらずって感じで……」 「ボーっとしてる?」 「はい、携帯を見つめてボンヤリしてたり、ため息をついたり、イベント中もずっと無気力な感じなんです」 普段の加奈子はどうしようもないクソガキだけど、仕事に関しては異様にプロ意識が高いから、 無気力に仕事をこなす姿はちょっと想像できない。 「ある時、誰かからかなかなちゃんに電話が掛かってきたんですけど、 その時はびっくりするぐらい元気になってたんです。 でも電話が終わった後は、また顔を赤らめてボーっとしてて…… 病院に行ったほうがいいって言っても聞いてくれなくて……わたし心配なんです」 ああ、なるほど。そこまで聞けば鈍感な俺でも分かるよ。 その症状は病院じゃ治せないだろ。 「それさぁ、あのガキが誰かに恋でもしたんじゃねえの?」 そう言うと、ブリジットは恥ずかしそうに俯いてしまった。 「……わ、わたし、そういうのはまだよく分からないんです」 まぁ、俺もそういう話は疎い方だけどさぁ 電話掛かってきて頬を赤らめボンヤリため息だなんて、いまどき漫画でも使われないほど 分かり易すぎる恋煩いの症状だろ。 「だとしても、いつも元気なかなかなちゃんらしくないっていうか……」 「うーん、そうは言っても、俺も加奈子のことを特別よく知ってるわけじゃないんだけどなぁ」 最近あいつを見かけたのは桐乃達と下校してるところだった。 そういえば、やたらと桐乃にベタベタくっついてて、それはそれで元気そうに見えたけど。 「第一、あのかなかなちゃんが恋をしたとしても、そんな乙女な反応をすると思いますか?」 「た、たしかにそれは意外ではあるな……」 そんな根拠で納得される加奈子も大概である。 ブリジットは顔を上げると、コホンとひとつ咳払いをした。 「あまり様子が変なので、わたしなりに色々調べてみたんですけど――」 そこでブリジットはぐっと身を乗り出してきた。 俺は思わず息を飲む。 「いまネットでウワサの“呪いの掲示板”に関係してるんじゃないかって思うんですっ!」 ブリジットと会った翌日―― 俺はまたゲー研の部室に顔を出していた。 先日、文化祭の出し物を決めていたゲー研は、その準備で活気に溢れている……ということは全然なく、 俺が来た時点では二年の部員が3人でゲームをしながらダベっているだけだった。 そいつらと挨拶をかわし、俺は部室の隅の椅子に座った。部員達はまたゲームとお喋りを再開している。 部長達が居ないせいもあるけど、文化祭が迫ってるのにこんな調子で大丈夫なのかよこのクラブは…… まぁ、そういう緩さが、俺にとっては居心地のいいんだけどさ。 ――と、そんなことを思っていたら黒猫がやってきた。 「待たせたかしら、先輩」 「いや、俺もいま来たばかりだ」 二年生達に軽く会釈をすると、黒猫はパソコン席に着き、電源ボタンを押した。 俺もパソコン席の隣に腰かける。 「……それで、話って何かしら?」 そう、俺は先日ブリジットから聞かされた話を黒猫に相談するために部室に呼んだのだ。 「――そう、あなたの妹さんの友人にまで“呪い”が……」 「ああ、まだ確定したわけじゃないが、ブリジットが言うにはそういうことらしい」 黒猫は、加奈子やブリジットと面識があるというわけではないが、コスプレイベントに行ったときに 観客として舞台の上にいた二人を見知っている。 そんな黒猫は、ため息をつき、俺の顔を見つめている。 いや、それは見つめたというよりも、なんだか観察するかのような視線だった。 しばらく沈黙していた黒猫だったが、カバンを膝の上に乗せ、その中からクリアファイルを取り出した。 「実はあの日以来、私は“呪いの掲示板”について、自分なりに調べていたのよ」 そういうと、パソコンのキーボードの上へと、無造作にクリアファイルに挟まれていた数枚の用紙を広げた。 そこには、黒猫による調査内容が丁寧に纏められていた。 ・“呪いの掲示板”でカップルの話題が急増したのが1月中旬から ・キラッらしき書き込みが最初に確認されたのが1月26日 ・その後の1か月ほどで486人、243組が被害を受けている ・平日は朝、晩に書き込みが集中しており、日中の書き込みは稀 ・当初の名前は「メルちゃん♪」であり、アニメ「星くず☆うぃっちメルル」を連想させるものだった ・当初は裏サイトの中学校の三年生を中心にカップル化されていた ・当初は顔写真の掲載は不要で、名前だけを条件にしていた ・そもそも当初は依頼を受けてからの呪い発動ではなく、キラッによる自発的なものだった ・数回、カップル化に失敗している →当人同士が顔見知りでない場合、および相手が遠方の人間だった場合は呪いが効かない模様 列挙されているそれぞれの事項について、関連する過去ログが引用されている。 「なるほど……よくまとめたな、お前」 「たいした事なかったわ。荒らしが増えたせいでスレ進行は早いけど、それでもまだ20スレ程度だし」 そうは言っても、20スレってことは……1000×20で2万レスを精査したってことだよな……? どうやらこいつ、かなり本気でキラッについて調べているようだ。 黒猫は片手でバサッと黒髪をかき上げ、ちょっと得意気にしている。 ただ、それらの事項に関する考察は書かれていない。その点は黒猫らしくないな、と俺は思った。 「そんなことよりも……それを読んだ上での、先輩の意見を聞きたいわ」 また黒猫は俺の顔をじっと見つめる。 いつもとはちょっと雰囲気の違う、まるで俺の表情の変化を逃すまいとしているような目だ。 だけど、俺はその違和感を、自分の気のせいだと思うことにして、気にせず黒猫の問いに答えた。 「そうだな……こうやって見ると、キラッって奴はなんとなく脇が甘いというか ……あまり考えずに行動してる感じを受けるな」 「ふぅん、それはどの辺りに?」 俺は黒猫の資料の一部を指差した。 「例えば、騒ぎの起こる最初の方では、三年生だけが被害を受けているけど、 これって、普通に考えれば三年生に近い人物……または三年生の中にキラッがいる可能性があるよな」 「そうね、その後リクエストを受けるようになってから二年生や一年生、さらには他校の生徒も対象にしているわ」 「それにスレへの書き込みの時間帯も、いかにも学生って感じだし、あまりそういうの隠してないよな」 そう答えた俺の意見に、黒猫も同調しうなずく。 「そうね、もちろん偽装のためにあえてそうしている可能性もあるけど、 こいつの書き込み内容を見る限り、そこまでの思慮深さを感じないわね」 「確かに、あまり知性を感じさせない書き込みばかりだよな……」 「それに、途中から写真を載せることを条件にしたのは、名前だけでは誰なのか判断できないからでしょうね。 逆に言えば、名前だけでリクエストを受けてた同校の三年生は、写真なしでも判断できたということ」 そう、つまりキラッはこの中学校の三年生の中にいると考えるのが自然だ。 調子に乗って俺はさらに続けた―― 「あと、やたらメルルネタを使ってるのが気になるよな。キラッってのもメルルの主題歌のネタだし」 「……そうね、1クールで終わった大きなお友達向けの凡アニメだというのに」 「いまどきメルルに執着する奴が、桐乃以外にも居るとは思わなかったよ」 あのアニメ、実は俺が思ってたよりも人気だったのかな? 呑気にそんなことを思っていた俺は、また黒猫からの観察するような視線に気付いた。 さっきから時折見せていた視線だ。 「なんだァ?さっきから妙に見つめてくるけど……」 怪訝そうにそう言い、俺はやや非難をこめた視線を返す。 すると、黒猫はフッと笑顔を見せた。 「……どうやら先輩は大丈夫なようね。安心したわ」 「大丈夫……って何がだよ?」 「いいのよ、気にしないで」 ??? どういう意味だ? なんだか訳が分からないが、とりあえずこの一連のやり取りで黒猫は何かを納得をしたようだ。 そして黒猫は、パソコンで件の中学校の裏サイトにアクセスし、現行のスレッドを開いた。 「この掲示板には、投稿者のIPアドレスの表示はなく、IDも表示されていないのだけど――」 IPアドレス……? ID……? 黒猫がさらりと言った言葉には、ネットに詳しくない俺にとって、少々ハードルの高い用語が含まれていた。 腕組みをして首をかしげている俺にやや呆れたように、黒猫が補足する。 「要するに、投稿者ごとに固有な識別番号、のようなものよ」 「ふむ…… 分かるような分からんような……。それがどうかしたのか?」 「つまり、どの書き込みを、誰が書たのか、書いた本人以外からは分からない仕組みなのよ」 そこまで聞いても、俺にはどうも黒猫の言わんとすることが分からない。 黒猫はマウスホイールを操作して、スレッドの最新の書き込み部分にスクロールした。 233 :学校の名無しさん:2011/02/21(月) 10 45 30 ○○中の3年C組の如月竜司と相川真央のカップル化おながいします! 写真はここです[LINK] 234 :(・ω<)キラッ☆彡:2011/02/21(月) 12 18 10 233 はい、完了 お幸せに~☆ 235 :学校の名無しさん:2011/02/21(月) 13 03 12 キラッUZEEEEEEEE 氏ねじゃなくて死ね 236 :学校の名無しさん:2011/02/21(月) 14 51 24 234 おお!マジであいつらカップルになってた! すげえ! キラッに感謝!!! 237 :学校の名無しさん:2011/02/21(月) 15 18 08 調子に乗るからやめろって!!!! 238 :学校の名無しさん:2011/02/21(月) 15 48 22 ○○高、1年3組の相川歩と平松妙子をくっつけてください! 写真→[LINK] 「――相変わらずカップル依頼とやらが続いてるんだな」 俺はうんざりしたように吐き捨てた。 黒猫はそんな俺に見向きもせず、キーボードをカタカタと叩いている。 何を書いてるのかと思い、テキストが入力されているフォーム部分を注視する。 するとそこには意外な内容が―― 名前: (・ω<)キラッ☆彡 E-mail: sage 内容: 238 ほい、完了したよ~ 「うおおおおおおい!!お、お前っ!一体なにを!!?」 そのあり得ない書き込み内容に、俺は思わず大きな声を上げ、椅子から転げ落ちそうになった。 それと同時に、部室の全員の視線を一身に浴びていることに気付く。 「す、すまん、なんでもないっ」 俺は唖然としている二年生達に向かってそう言い場を取り繕うと、黒猫に顔を寄せて小声で囁いた。 「んで、なんなんだその書き込みはよ。 ま、まさかお前が――」 「……そんな訳ないでしょう」 黒猫は投稿ボタンをクリックしてスレへの書き込みを終えると、椅子を回して俺と向き合った。 「この一連の依頼のやり取りは、すべて私が“成り済まして”書いたもの。カップルの学校名も名前も写真も適当よ」 「ど、どういうことだ?じゃあ、ここのカップル化報告は……」 「もちろん嘘っぱちよ。私が書いたのだから」 どうも話についていけない。 これもスレ荒らしの一種だろうか?などと見当違いの発想をしていた俺だったが、 黒猫は構わず言葉を続けた。 「今日、私は休憩時間のたびに、このPCを使って依頼者とキラッに成りすました書き込みをしていたのよ。 さっき言ったように、この掲示板はIPアドレスもIDも出ないから、そういうことをしてもバレないの」 「お前、そんなことを……一体何のために?」 俺のその問い掛けを待っていたかのように、黒猫はしたり顔で答えた。 「キラッに対して揺さぶりをかけるためよ。 他の人には分からなくても、キラッ本人がこれを見れば『自分に代わって誰かが成り済まして依頼を遂行した』と思うでしょう? 自分と同じ能力を持つ者が現れた、とでも受け取ってくれればしめたものよ」 「そういうことか……」 「キラッがどうやって魅了<チャーム>の呪いを身に付けたのか、それは闇の眷属たる私にも分からない。 だけど、こうやって揺さぶることで、手掛かりを掴むことができるかもしれないわ」 なるほど。確かに、依頼者の結果報告レスを偽っていても、キラッにはそれが事実か否かを確認する手段はないだろう。 この“呪いの掲示板”は、ネット上のやり取りだけで成立していたので、そこは盲点と言えるかもしれない。 黒猫は“第二のキラッ”とでもいうべき存在を、いとも簡単に作り上げたのだ。 「いつも通りならキラッは今晩このスレッドに現れるはず。フッ、どんな反応をするか見モノね」 黒猫は不敵な笑みを浮かべていた。 その日、帰宅したあたしはいつものようにパソコンに向かっていた。 熱いコーヒーを片手にスレをチェックするこのひと時は、今のあたしにとって一番の癒しの時間だ。 人類総カップル化計画が着実に進んでいる達成感と充実感―― まだまだ目標には遠く及ばないけど、キラッの存在は着実に世間へ伝播されているだろう。 まずは千葉……次いで関東全域……そして日本全国へ…… そんなことを思いながら、あたしはコーヒーを口に含んだ。 だが次の瞬間、スクロールしていたスレ画面には、ありえないレス内容が映し出されていた。 ブ――ッ!!!!!!! 『おい、汚えな! モニタがコーヒーまみれになってるぞ』 褐色の液体を盛大に噴出したあたしは、傍らのリュークに画面を指差し、その箇所を見るよう促した。 「げほっ!げほっ……リューク、ちょっとこれ!これどうなってんのよ!?」 233 :学校の名無しさん:2011/02/21(月) 10 45 30 ○○中の3年C組の如月竜司と相川真央のカップル化おながいします! 写真はここです[LINK] 234 :(・ω<)キラッ☆彡:2011/02/21(月) 12 18 10 233 はい、完了 お幸せに~☆ 236 :学校の名無しさん:2011/02/21(月) 14 51 24 234 おお!マジであいつらカップルになってた! すげえ! キラッに感謝!!! 238 :学校の名無しさん:2011/02/21(月) 15 48 22 ○○高、1年3組の相川歩と平松妙子をくっつけてください! 写真→[LINK] 240 :(・ω<)キラッ☆彡:2011/02/21(月) 16 20 50 238 ほい、完了したよ~ 251 :学校の名無しさん:2011/02/21(月) 16 58 21 240 ありがとうございます!成功してました!!! 『これがどうかしたのか?』 「どうかじゃないわよ!この時間帯、あたしは書き込んでいないのよ!」 これは一体どういうことなのだろう? キラッであるあたし本人に書いた覚えがないのだから、他の誰かが書き込んだのは間違いない。 だけど重要なのはそんなことじゃない。 まず第一に、この成りすましがそれぞれのカップル依頼を受けて、ちゃんと成立させているってこと。 あたし以外の誰にそんなことが出来る? 「それぞれにカップル化の成功報告もされてるわね…… 訳が分からない……」 『お前が書き込んだことを忘れてる……ってことじゃないよな?』 「ありえないって。大体このとき、あたしはまだ学校にいたのよ」 あたしは机にデレノートを開き、そこに書かれている名前の羅列をチェックした。 だけど、このレスで依頼されている男女の名前は、そこには見当たらない。 誰かが密かにあたしのデレノートに書き込んだわけではない…… となると…… 「リューク、人間界にもたらされたデレノートは、もしかして他にも存在するの?」 『……あるかもしれないし、無いかもしれない、としか言えない。 俺がお前にデレノートを渡したように、他のデレ神が同じことをしているかもしれないからな。 まぁ、そんな物好きは俺ぐらいだと思っていたけど』 リュークの箸にも棒にも掛からぬトボけた答えに、思わずため息をついた。 大事なことなんだから、あんたも神様の端くれなら、それぐらいハッキリしなさいっての。 でも、本当にデレノートがあたし以外の誰かの手にもあるとしたら……なんて恐ろしいことだろう。 そしてもっと重要な第二の問題は、この書き込みをした者が、あたしの二つ名である「キラッ」に成りすましたということ。 つまり、この偽者はあたしの存在を認識した上で、わざわざ干渉してきたのだ。 それも、周りの人からは分からない、成りすましという方法で。 これは……あたしとのコンタクトを望んでいる?それとも敵対のアピール? 「どちらにせよ、放置しておくわけにはいかないわね……」 モニタに映る偽キラッの忌々しい顔文字を、あたしはもう一度睨み付けた。 ……あっ、でもその前にそろそろ晩ご飯の時間ね。 「ごっそさん――」 食事を終えた俺は、自分の食器を重ねると、台所の流し台へと運び、さっさと食卓を後にした。 いつもならリビングでテレビでも観て、しばらく食休みをするのだけど、今日はやらなきゃいけない用事があるんだ。 自室に戻った俺は、机の下のパソコンの電源を入れ、しまっていたモニタとキーボードを設置する。 桐乃とゲームの交流が無くなってからというもの、俺のパソコンの出番はめっきり減っていた。 起動するの自体、何日ぶりだろう、というレベルだ。 まぁ、俺は普段ネットとかしないし、このパソコンだって沙織がくれるというから貰ったようなものだし。 そうだな……しいて言えば、受験勉強の息抜きにちょこっとネットサーフィンするぐらいか? カリ○アンコムとか、カリ○アンコムとか、カリ○アンコムとか―― …… ……久々だし、ちょっとだけ…… と、秘蔵のブックマークを開こうとした瞬間、隣の部屋からドアがバタンと閉まる音がして、俺は思わずビクついた。 どうやら桐乃も部屋に戻ったようだ。ふぅ、ビビらせやがるぜ…… そうだった。今日は用事……というか任務があるんだった。 本来の目的に立ち返った俺は、ブラウザを起動して例の中学校の裏サイトへとアクセスした。 そして現行の恋愛スレッドを開くと、最新の50件を表示する。 どうやらキラッの書き込みはまだ無いようだ。 なんで俺がこんなけったくそ悪いサイトをチェックしてるのかというと、 話は今日の下校時に遡る―― ゲー研での部活(といってもキラッについて話してただけだが)を終えた俺と黒猫は、二人で下校していた。 部室で感じだと、どうやら黒猫は、キラッの人物像にある程度の予想がついているらしい。 そして本気でキラッの行動を止めようと考えているようだ。 だけど、そんなことが果たして可能なのだろうか? 相手は得体の知れない奴だっていうのに。 もしキラッが本当に呪いを使う異能者だったとして、“自称闇属性”にすぎない黒猫に対抗できるとは思えない。 隣を歩く黒猫の方に視線をやると、黒猫もなにやら考え込んでいるようで、自然と俺たちの間には沈黙が横たわっていた。 しばらく経って、黒猫がふと立ち止まり口を開く。 「……先輩の部屋にはネットに繋がったパソコンがあるのよね?」 「ああ、あんまり使ってねーけど一応な」 「じゃあ今晩、そのパソコンを使ってやって欲しいことがあるのだけど――」 その言葉を聞き、パソコン音痴の俺はちょっと身構えた。 「おい、念のため言っとくが、パソコンに弱い俺に高度な作業を要求するなよ?」 「知ってるわよ、そんなことぐらい」 黒猫はふっと鼻で笑ってみせた。 そういう態度って初心者を思いっきり傷つけるんだぜ……チクショウ。 「キラッはいつも19時過ぎから例の掲示板に書き込みを始めるのだけど、今晩、それぐらいの時間になったら、 先輩は10秒間隔ぐらいでスレッドのリロードを繰り返して、キラッが現れるまで待っていて欲しいの」 「ん?そんなことなら俺でも出来るけど……何の意味があるんだそれ?」 「まだ続きがあるわ。リロードしてキラッの書き込みが表示されていたら、直後を狙ってすぐスレに書き込みをするの。 内容は何でもいいわ。思い付かなければ『記念真紀子』とでも書けばいい」 「キラッのすぐ後に書けばいいんだな」 「そして書き込みを実行したら、その結果を私にメールで知らせて頂戴」 それでキラッの何が判るのだろう? 俺は首を傾げたが、黒猫は「後で解る」とだけ言い、それ以上の説明はしてくれなかった。 そんなやり取りを交わして、俺は黒猫と別れた。 そして今、俺はF5ボタンを一定間隔で繰り返し押す任務を遂行中だ―― 始めてからもうそろそろ20分近く経とうとしているが、まだキラッの書き込みは無い。 こういう単純作業って結構ツラい。 黒猫の話の通りなら、もうとっくにキラッがスレに現れてておかしくない時間なのだが…… まさか今日に限ってキラッはお休みだとか言うんじゃないだろうな? 成りすまし作戦を仕掛けたから、絶対何らかの反応を示すはず、と黒猫は言っていたけど…… そしてそれからさらに5分ほど経ち、これって漫画片手にやってもいいのかな?なんて俺が思い始めたその時、 ようやくキラッの書き込みが表示された。 324 :(・ω<)キラッ☆彡:2011/02/21(月) 19 31 08 234 240 何者? あんたもノート持ってんの? どうやらキラッは、黒猫の成りすましレスにまんまと反応してきたようだ。 ノートって何のことだろう?という疑問も湧いたが、今は黒猫の任務を果たすのが先だ。 投稿時刻を見ると、数秒前に書き込まれたばかり。ええっと、あとは急いで書き込めばいいんだよな。 俺は書き込みフォームにカーソルを合わせると、黒猫から指示された通り、ひねりも無く「記念真紀子」とだけ入力した。 「これで書き込み、と」 マウスを操作して投稿ボタンをクリックする。 ――だが、投稿は受け付けられず、画面にはエラーが表示されてしまった。 エラー! 120 sec たたないと書けません。(1回目、79 sec しかたってない) 名前: E-mail: sage 内容: 記念真紀子 エラーって……おいおい、これじゃ書き込めないじゃないか。 またリロードマシーン化させられるのだけは勘弁してくれ、と念じながら再度書き込みをやり直したけれど、 やはり同じエラーが表示されてしまう。 「120sec」ってことは、2分待てということだろう。 でも黒猫からは、キラッのすぐ直後に書き込むように言われていたし…… 迷った俺は、とりあえず黒猫にメール報告をすることにした。 《今、キラッのすぐ後に書き込んだけど、120secとかいうエラーが出るぞ。最初からやり直しか?》 すると、間髪いれずに黒猫から返信が届いた。 黒猫からのメールはいつも素っ気無く、簡素なものだけど、この時のメールは更に輪をかけたものだった。 《もういいわ。本当に残念》 スレに書き込めないぐらいでそんなに残念なのか? そう思っていた俺は、黒猫の言葉の真意を、このときはまだ理解できずにいた。 翌日、俺はまた黒猫とゲー研の部室に居た。 ただいつもと違っていたのは、放課後ではなく、昼休みの誰もいない時間帯に呼び出しを受けたということだ。 もしかして、二人っきりで昼飯でも食べるつもりなのかな?なんて浮ついたことを思ってた俺だったが、 黒猫から突きつけられた衝撃発言で、冷水を浴びせられた気分になっちまった。 「――キラッの正体は、あなたの妹さんだったわ」 あまりにも唐突すぎて、その短い発言の意味を理解するのにも数秒を要した。 静かな部室に響いた黒猫の言葉を、俺は咀嚼してなんとか飲み込み、聞き返す。 「……は? ……それはどういう意味だ?」 「意味も何も、そのままよ。貴方のおかげで確信が持てたわ」 「それって、昨夜の書き込みのことを言っているのか?」 昨夜、俺は黒猫に頼まれて、例の掲示板に書き込みを行った。 実際には連投制限とやらで書き込めなかったわけだが、……どうやら黒猫の目的はその制限そのものだったようだ。 「キラッの直後に先輩が書き込んで、それが連投と判断された。この事実がすべて。 そもそも連投制限というのは、リモートホストのIPアドレスを元に判断されているのだけど――」 「待て、待て! 俺にもちゃんと分かるように説明してくれ」 こいつがマジで桐乃を疑ってるというなら、意味不明な専門用語に生返事をして受け流すことはできない。 俺の妹を犯人扱いするからには、しっかりその根拠を説明してもらわないとな。 それがもし見当違いなものなら、俺は黒猫だって容赦はしない。 第一、こいつにとっても桐乃は数少ない親友だろうに、一体何を考えてるんだ…… そんな俺の非難の視線を、黒猫はまるで気にする様子もなく話を続ける。 「先輩は、インターネットをする際にプロバイダへ接続する必要がある、ということをご存知かしら?」 「ああ、うちはOCNだったかな?とにかく桐乃がどこかと契約してたぜ」 「ネットに繋ぐと、そのプロバイダから固有の番号が払い出され、それを身元としてホームページを見たり、 メールを送ったりしたりしているのだけど、その番号のことをIPアドレスと呼ぶの」 黒猫はネットに疎い俺にも分かるよう、丁寧すぎるぐらい丁寧に説明した。 「で、掲示板の連投制限っていう機能は、その固有の番号、つまりIPアドレスを元に、 同じ人が短時間に続けて書き込みをしようとしてないかを判別しているのよ」 「……つまり、俺が昨夜書き込めなかったのは、誰かが俺と同じ……IPアドレスってので書き込みしたからなのか?」 「ええ、その通りよ」 そこまで聞いて、俺は微かに背筋が寒くなるのを感じていた。 昨日の黒猫の指示は、「キラッの書き込みの直後に書け」というものだった。 それはつまり―― 「通常、ひとつの家の中で複数台のパソコンを使うには、ルーターという機器で繋ぐのだけど、 その場合、どのパソコンからネットに接続しても、使われるグローバルIPアドレスは同一のもの……」 黒猫はあえてその先を口にしなかった。だが、俺には伝わった。 ――俺の直前に書かれたキラッの発言は、俺と同じく高坂家の中が発信源だったってことだ。 うちにあるパソコンは、俺の部屋以外では桐乃の部屋にしかない。 ということは、……直ちには信じられないことだが、つまりキラッの正体は、桐乃以外に考えられないってことだ。 俺はもう一度、いまの黒猫の話と昨日の状況とを回想して、どこかに齟齬がないかと探し始める。 どんなに仲の悪い兄妹だとしても、自分の妹が犯人扱いされれば、その可能性をなんとかして否定したくなるものだ。 しかし、どれだけ考えをめぐらせても、黒猫の推理を覆せるような材料は見つけられなかった。 あの馬鹿、何やってんだよ…… 悔しさと情けなさが混じった感情に襲われる―― さすがの俺も、もう黒猫の推理に乗らざるを得なかった。 「……お前、いつから気づいていたんだよ?」 「裏サイトがあの娘と同じ中学校で、最初の犠牲者が同じ学年、三流アニメのネタを散りばめつつ痛々しい発言の数々――」 そこでひとつ、黒猫は呆れたようにため息をついた。 「――正直、かなり早い段階……書き込みログを見直してたあたりから、目星はつけていたわ」 「そ、そう言われると、尋常じゃない程に条件が桐乃にマッチしまくってるな……」 っていうかこんな大それた事をするなら、少しは身元を隠そうとしろよあのアホ! あいつは、勉強もスポーツもできる、いわゆる優等生のはずなのに、どうも普段はどこか抜けてるところがあるんだよなァ エロゲDVDを落として俺にヲタバレしたり、コミケ帰りに浮かれてあやせに見つかったり……あいつはそういう奴だった。 頭が痛くなってきたぜ…… 「それでも、私は自分の予想が外れていることを願っていたのだけど」 そう呟く黒猫は、少し寂しそうな表情を見せていた。 桐乃が“カップル化の呪い”などという異様な行為で世間を騒がせているのなら、 俺は兄として即刻辞めさせなければならない。 すぐにでも桐乃に電話して、真偽を確かめようとしていたが、そんな俺を黒猫は制した。 「先輩、まだ問題は解決してないわ」 「あん?桐乃が犯人なら、とっちめてやりゃいいじゃねえか」 俺は鼻息荒く答えたが、黒猫の反応は冷ややかだった。 「そんなことをしても、証拠はないのだからトボけられて終わりよ。かえって警戒されるだけ」 「証拠って……掲示板の書き込みのことじゃ駄目なのか?」 「それは状況証拠に過ぎないわ。もっと直接的かつ決定的な証拠じゃないと。 そもそも、あの娘はただの人間なのに、なぜ魅了<チャーム>のアビリティを会得できたのか……」 確かに、今起きているのは、名前と顔写真だけで他人の恋愛感情をコントロールする、などという現実離れした話だ。 そんなことを、桐乃はどうやって実現させているのか? 「大方、闇世界の者が要らぬ能力<ちから>を与えたのでしょうけどね。この私を差し置いて……」 ついさっきまでIPアドレスだのりモートホストだの、小難しいことを理路整然と話してたくせに、 いきなりオカルトな電波妄想を持ち出されると、こいつの推理を信用してホントに大丈夫なのかと不安になる。 だが正直なところ、呪いの正体についてはまるで見当がつかない。 現実的に考えれば、催眠術か何かだろうか? つまり黒猫の言う“直接的かつ決定的な証拠”というのは、“実際どうやって呪いをかけているのか”、 という部分を明らかにするという意味だろう。 犯人が分かっても、凶器が見つからなければ立証が難しいという、刑事ドラマでよくある展開のアレだ。 「……黒猫、俺に何かできることは無いのか?」 そう尋ねると、黒猫は目を閉じてしばらく考えてから答えた。 「そうね、しばらく先輩は何もせず、普通に過ごして頂戴。もしキラッについて私達が探ってることを 感付かれでもしたら、おそらく口封じで呪いの餌食にされるでしょうから」 「おいおい、桐乃が俺達に呪いを掛けるってのか!?さすがにそこまでは……」 俺はあいつの兄貴であり、お前はあいつの親友だ。 いくらなんでも考えがドライすぎる、と反論した俺だったが、黒猫の目はマジだった。 「いいえ、十分あり得ることよ。だから本当に気をつけて頂戴。掲示板の書き込みを読む限り、 あの馬鹿女は呪いを掛けられた人間が幸せになっていると、本気で思ってる節があるから」 「だから身内でも躊躇しないってことかよ……」 俺はブリジットから聞いた加奈子の症状を思い出していた。 四六時中誰かにデレていて、仕事にも無気力になり、恋する乙女モードに…… 確かに、もしそんな状態にされたら、キラッ事件の追求どころじゃなくなるだろう。 「むしろ私に言わせれば、あのブラコン娘が今まで貴方を対象としてなかったことが意外だけれど」 「ケッ、あいつはそんなんじゃねーよ」 そこまで話したところで、昼休憩の終わりを告げる予鈴が聞こえてきた。 「私の話はそれだけよ。教室に戻りましょう」 「ああ。……とりあえずお前の言う通りに、しばらく大人しくしておくさ」 事態がだいぶ飲み込めたとはいえ、俺の頭の中はまだぐちゃぐちゃに混乱していた。 色々な考えを整理するには、いずれにしろ時間が必要だ。 俺は部室の照明を切ると、パソコンの操作をしている黒猫を急かした。 「おーい、早くしろよ。授業始まっちまうぜ」 「ちょっと待ちなさい。キャッシュ消してからシャットダウンしないと……」 やれやれ。 先に部室を出て待つことにした俺は、出入り口に向かう。 そのとき俺は、部室の扉の磨りガラスに、一瞬、人影が見えたような気がした。 だけど、ドアを開けても外には誰の姿も無かったので、特に気に留めはしなかったんだ。 あれから一週間が過ぎようとしている。 この間、この事件にはちょっとした変化が訪れていた。 俺が黒猫の指示を受け、キラッの正体――つまり桐乃であることを暴いたあの日を境に、 キラッはなぜか“呪いの掲示板”に現れなくなったのだ。 キラッが桐乃だったという事実は、俺にとって正直かなりショックなものだったけれど、 黒猫の言いつけ通り、俺は桐乃に対して特別な反応は示さないよう努めてきた。 だから、俺たちがキラッの正体を見抜いたということは、まだ桐乃に知られていないはずなんだけど…… そうなると、キラッが現れなくなったのは、黒猫のもうひとつの作戦が効いたってことか? あの日、黒猫は“成りすまし&自作自演”という揺さぶりも掛けてたからな。 とは言っても、それに対するキラッの反応は―― 324 :(・ω<)キラッ☆彡:2011/02/21(月) 19 31 08 234 240 何者? あんたもノート持ってんの? この意味不明な1レスだけだったけど。 “ノート”ねぇ…… 普通に考えれば紙を束ねて綴じてある、あのノートだよなァ それとも何かの隠語になっているのだろうか? あーっ!チクショウ、実にもどかしい! 隣の部屋をノックして、あいつから直接聞き出せりゃあ、どんなに話が早いだろう。 学校の昼休憩、俺は黒猫と二人で部室に居た―― キラッの正体が身内だと判明してからは、他の部員がいる放課後は話しにくくなったため、 俺たちはほぼ毎日、誰もいない昼の部室でキラッ事件について話し合っている。 もっとも、ここ数日は何の進展もなく、俺たちの捜査は行き詰まり気味だ。 「まずいわね……」 黒猫は腕組みをして呟いた。 「まさかキラッが掲示板から姿を消してしまうなんて……これじゃ探りようがないわ」 正体を知った今でも、俺たちは犯人のことを指して“キラッ”と呼んでいる。 俺にとっての妹、黒猫にとっての親友――お互い、桐乃を犯人として扱うのは抵抗があるからだ。 傍から見ればただの現実逃避かもしれないが、それが俺たちの暗黙のルールになっていた。 「ニセモノの出現で、警戒されたんじゃねえか?」 「……これまでキラッがあまりにも無警戒だったので、ああいう方法を採ったのだけど、 こうもあっさり動きを停められるとは……正直失敗だったわ」 黒猫は悔しそうに顔をしかめている。 “面倒だから、もうあいつをふん縛って白状させようぜ”と、よっぽど俺は提案しようかと思ったが、 黒猫に一蹴されるのは目に見えているのでぐっと堪えていた。 「……だけど、もしニセモノを警戒して身を潜めているということであれば、それが新たなヒントにもなるわ」 「ヒント?」 「キラッは自分以外の人間が、自分と同じ能力をもつ可能性を否定できないってこと。 ……あえて拡大解釈をすれば、この能力は私達が思うよりずっと簡単に、人に備わるものなのかもしれない」 なるほどな。 だけど、それは俺にはある程度予想ができていた。 少なくとも今年の始め頃までは、桐乃は“ただの桐乃”だった。 様子がおかしくなったのは、それ以降のことだ。 あいつに何が起きたのかは解らねえが、きっとあいつ自身が望んで手に入れた能力なんかじゃなく、 意図せず誰かに能力を与えられ、唆されて、キラッなんかになっちまったんだと思う。 だからこそ、もうこんなことはやめさせたいのだが…… 「このまま大人しくしててくれりゃあ、それでもいいのかもな」 俺の呟きに、今度は黒猫が反応する。 「駄目よ。手口を明らかにして抑止策を講じないと。あの気紛れな娘に生殺与奪を握られている状態なんて危険すぎるわ」 「そ、それもそうか……。でもどうやって?」 黒猫は考え込んでいる。 「――この状態が続くようなら、こちらからアクションを起こす必要があるわね」 ……そのアクションって、どうせ俺にやらせるんだろ? 頼むからあまり無茶なことはさせないでくれよ。 ◇ ◇ ◇ 退屈―― それが今のあたしの中の大部分を占めている感情だ。 偽キラッが現れてからというもの、あたしは用心のため、カップル化作業も掲示板への書き込みも控えている。 あたしが最後に書いたのは、偽キラッに探りを入れるレスだったんだけど、向こうから反応は返ってこなかった。 そして偽キラッの方も、あの日を限りに現れていない。 二人のキラッが居なくなったため、結果としてスレッド上には手付かずのカップル化依頼が溜まり、 スレ住民達も戸惑っているみたい。 まぁ、なりすましの偽者が出現してたってことは、当事者間でしか分からないことなので、他の人達は気付いてないだろうけどね。 はぁ……、めんどくさいことになっちゃったなぁ…… 「ねぇ、リューク。あたしどうしたらいいと思う?」 『あん?……なんのことだ?』 「だから、こないだの偽キラッのことよ」 『あー……』 リュークはあまり関心なさそうに、ノーパソへ向いたまま生返事を寄越した。 このデレ神、あたしが冗談半分にエロゲを薦めたらまんまとハマっちゃって、いまでは昼夜問わずプレイしている。 「ちょっとぉ!話をするときぐらいゲームはやめなさいよ」 パタン、と横からノーパソの画面を閉じてリュークから取り上げる。 『おいおい、りんこルートのクライマックスだったのによぉ』 「あんた、何のために人間界に来たのよ……」 リュークは渋々といった感じで、あたしの方へ向きなおした。 『ニセモノなんか気にせず堂々としてりゃいいじゃねえか』 「だけど気になるじゃん。何のためにわざわざキラッに成りすましたのか……気味悪いって」 『案外、仲間になってくれるかもしれないけどな。 キラッが増えれば、お前の人類総カップル化計画も大きく前進するじゃないか』 うーん、二冊目のノートなんてホントに存在するのかなぁ…… こいつ、適当なこと言ってるんじゃないの? 『なぁ、それよりシスカリ対戦しようぜ~』 駄目だこのデレ神……早くなんとかしないと…… そんな話をしていると、机の上の携帯電話が着信を知らせた。 ケータイを手に取り、液晶モニタに目をやると、そこには“非通知着信”と表示されている。 不審に思いながらも、あたしは応答ボタンを押す。 「……もしもしぃ?」 どうせ掛け間違いだろう。 そう思ったあたしは、とても迷惑そうな声で応じた。 だけど直後に、あたしは非通知の電話なんかに出たことを後悔するハメになってしまった。 『――こんばんは、突然電話してすみませんね』 その電話の主は、丁寧な口調で話した。 ただ、その丁寧さに反して異様だったのは、その声が妙に甲高く機械的なもので、 明らかにボイスチェンジャーを通している音声だったことだ。 なにこれキモッ!イタ電!? 「な、なんなの? 切るからねっ!」 嫌な予感がしたあたしは、一方的に電話を切ろうとする。 しかし、スピーカーから聞こえてきた次の言葉によって、あたしの全身は金縛りのように強張り、 電話を切ることができなくなってしまった。 『あ、ちょっとちょっと!まだ切らないで、高坂桐乃さん……いや、キラッと呼ぶべきですか?ふふふ……』 携帯から聞こえてきた機械的声が、あたしの中で何度も響いている―― 『高坂桐乃さん……いや、キラッと呼ぶべきですか?ふふふ……』 一体……なぜ? どうしてあたしがキラッだと…… あまりの驚き、そして動揺で、まともに呼吸することさえできない。 あたしは全身から汗が噴き出していることを感じた。 『高坂さんー?大丈夫ですかぁ?』 電話の声の主は、こちらの驚きようを見透かしているかのように呼び掛けてきた。 「……あ、あんた誰?……何者?」 あたしはようやく声を絞り出した。 こいつはあたしの携帯に直接電話を掛けてきた。 どうやって番号を調べたのか?それとも元々あたしを知ってる人物……? 『あはは、わざわざ声まで変えて電話してるのに、そんなこと教える訳ないじゃないですか』 その嘲笑い混じりの声は、ボイスチェンジャーによってひときわ甲高く変換され、とても耳障りな音として届いた。 『それに、キラッに名前を名乗るほど、あたしは間抜けじゃないですよ』 「……アンタさぁ、さっきからキラッ呼ばわりしてるけど……何の証拠があってそんなこと言ってンのよ?」 動揺しつつも、なんとかまともに話せるようになったあたしは、敵意をむき出しにした口調で問い返した。 だけど、電話の相手はまったく動じない。 『あららら、その台詞って、追い詰められた犯人が口にする定番の台詞ですね』 まずい、あたし空回りしてる?落ち着かなきゃ…… 冷静になって慎重に対応しなければ、後で取り返しのつかないことになってしまう。 だけど、次に電話から聞こえてきた声が、あたしの中にわずかに残ってた冷静さを完全に奪い去ってしまった。 『――証拠はあります。なんならあの掲示板に、証拠を添えて、キラッの正体を暴露してもいいですよ?』 「ちょ、ちょっと!?」 コイツ、なんて恐ろしいことを言い出すのよ!? あそこにはキラッのアンチがウジャウジャいるし、中には脅迫めいたことを書き込んでる奴もいる。 もし正体がバレたりしたら、あたしはもう家から一歩も出られなくなる…… 『まぁ、そんなことしたら、高坂さんは社会的に終わっちゃうでしょうねぇ~、ふふふ』 どうやってこのピンチを切り抜ける――? あたしは咄嗟にリュークに視線を送り、目で救いを求めた。 だけどリュークは、あたしが電話中なのを幸いとばかりにエロゲを再開中。こちらには目もくれない。 うん、まぁ、どうせそんなこったろうと思ったわよ。……後でコロス! 電話の相手はなおも続けた―― 『まぁ、わざわざボイスチェンジャーまで用意して、あなたに直接電話を掛けてるのだから、 それだけでも確証なしにできることじゃないって分かるでしょ?』 確かにその通りだ。 それに、もしこいつが握ってる証拠が弱いものだったとしても、嫌疑が掛かった時点であたしの負けだ。 あのスレで一度でも犯人扱いされたらアウト。潔白の証明なんてできやしないし、 そんな状態では危険すぎて、キラッの活動を続けるのは難しくなるだろう。 ダメだ、あまりにも状況が悪すぎる……。 『とにかく、あなたは正体をバラされたらそれで終わり。それを握っているのはあたしだということ』 その言い方で、ようやくあたしはコイツの中に含むものがあると気づいた。 「アンタの目的は何?……正体をバラすつもりなら、電話なんかせず、さっさとスレに書くはずよね」 『あはは、それもそうですね。……でも話が早くて助かります』 こいつの要求が何であろうと、いまのあたしの立場では受け入れるしかない。 そう覚悟は決めていたが、電話の相手は予想以上にとんでもないことを要求してきた。 『他人をカップルにする方法、それをあたしにも教えてください』 「はぁっ!? 方法って、そんなこと言われても……」 『隠そうとしたり、嘘をついたりしても無駄です。高坂さんが今年に入ってからその能力を身に付けたことは知っています』 クッ、こいつ……。 これは……どうすればいいの? 馬鹿正直にデレノートについて話すべきではない、そんなことはあたしだって重々承知している。 となると、ここは適当なことを言って煙に巻き、こいつの正体を暴く時間を稼ぐべきだろう。 顔と名前さえ分かればどうにでも…… あたしはこの場を凌ぐため、そんな対応策を考えていた。 だけど、どうやら駆け引きでは相手の方が一枚上手だったようだ。 『言っときますけど、1週間以内にあたしが“カップル化の呪い”を使えるようにならないなら、 それがいかなる理由だとしても、あたしはキラッの正体を暴露します』 「なっ……!?」 『他人に教えられない性質のものだとか、こちらにその呪いを使う適性が無いとか、 そういうやむを得ない理由だったとしても、あたしは絶対に絶対にキラッの正体を暴露します』 こ、こいつは何てコトを言い出すのよ! キラッの正体を暴露しても、こいつ自身に何のメリットも無いはず。 こいつの目的がキラッに成り代わることなのであれば、むしろそれはデメリットかもしれないのに。 ……そう分析したところで、こいつが損得勘定だけで動く保証などどこにも無い。 「バラされたら終わり」という大前提は、依然としてあたし達の間に高くそびえているのだ。 結果として、あたしにはこの無茶苦茶な脅しに抗する手立ては見つけられなかった。 電話の声は、少し得意気にトドメの一言を見舞った。 『ほらほら、選択肢も拒否権もありませんよ』 ――そして、あたしはデレノートを失うことになった。
https://w.atwiki.jp/orenoimoutoga/pages/89.html
http //blog-imgs-32-origin.fc2.com/z/e/a/zeark969/hirame130060.jpg 「くっ……! お兄さんみたいな変態の前で『うっかり』自分に手錠をかけてしまうなんて……これはピンチですよ!?」 「……………………ふむ」 「お兄さん! 絶対に!(チラッ) 絶対に変な気を(チラッ)おこさないでくださいよっ!?」 「んー、そうだなー、こんなに可愛いあやせが、こんな状態で拘束されてるわけだしなー、普通に考えて手出しちゃうよなー」 「な、何を企んでいるんですか……?(ワクワク)」 「でも、あやせは嫌がってるみたいだしなー、このまま離れたほうが」 「えぇっ!? や、だめ、行かないでくださいっ!」 「なに? 手、出してほしいの?」 「……そ、そ、そ、そ、そんなわけないじゃあないですかっ! バカっ! ただ、そう、あれですよ、こんな状況でひとりにされたら困るじゃないですかっ! は、外れませんし」 「ふぅん…………じゃあ、側にいてじっと見ておこうか」 ☆ 「じーっ。」 (うぅ……こんな、見られて、やだ……ずっと、見てるだけ、なんて……というか、あ………) 「うぅ………………お、兄さん、鍵、外して、もらえ、ませんか? その、ベッドの近くに落ちているはずですから」 「鍵? ……つーか、今まで言わなかったのに、何で言うんだ?」 「そ、それは、お兄さんが何もしな……もにょもにょ……じゃなくて、その……言いづらいんですけど」 「大丈夫だ、言ってみろ。言わなきゃ外さないぞ」 「うぅ…………うーっ、うーっ! そ、その、……ですね――――――――お、お花摘み…………です」 「ほほぅ……じゃあ、触るからな」 「はい……って!? ゃ、ゃあっ! ナニやってるんですかっ!」 「あやせのここ…………いい匂いがするな、ペロペロ」 「ゃ、だ、だめ、ゃ、我慢、してたのに、今、されたら、ぁっ! んっ、ぁっ、くっ、ぁあっ、あっ、だ、め……それは、トイレ、行ってから……っ!」 「大丈夫。――――――あやせのなら、俺、受け止められる。あやせのどんな姿見ても、俺はあやせが好きなのは変わらないから」 「なんで、それ、今っ……! ゃ、ちから、が、ぁ――――!」 (ちょろろろろろ…………) 「…………ひっく、お、お兄さん、に、見られちゃった…………一番恥ずかしいところ、見られちゃったよぅ…………」
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/262.html
592: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 02 26 16.87 ID QB/i3zRT0 第3話 『私の妹がこんなに可愛いわけがないっ!』 秋葉原に出かけてから数日が過ぎた。 今の私は、とある任務の最終場面に入っている。 ここで下手を打つわけにはいかない。 諸君も、私の戦いをしばし観戦してくれたまえ。 【妹と恋しよっ♪】 グラハム「私は君の心を奪う!!世界などどうでも良い!己の意思でっ!!」 しおり「お兄ちゃんだって世界の一部なのにっ!」 グラハム「ならば!これは世界の声だっ!!」 しおり「違う!お兄ちゃんは、自分の性欲を押し通してるだけっ! お兄ちゃんのその歪み!あたしが断ち切る!」 グラハム「よく言った!しおりぃぃぃ!!」 しおり「うわぁぁぁぁぁあ!!」 グラハム「うぉぉぉぉぉぉ!!」 ドカーーーーーーン fin 「良いゲームだった!」 ついに私はこの任務を完遂する事に成功した。 こういうゲームが初めてである私には難易度は高かったが どうにかENDマークまでたどり着く事が出来たようだ。 私の分身である主人公と妹しおりとの最後のシーンは まさに名場面と言っても過言では無いと断言するっ! これならば我が妹が私に勧めた理由も判ると言うものだ。 早速、攻略した事を報告に行かねばなるまい。 597: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 02 45 50.43 ID QB/i3zRT0 私は自分の部屋を出るとすぐ隣の妹の部屋の扉をノックした。 「なに?なんか用?」 「フッ、任務達成の報告に来ただけだ。中々興味深かったと言う言葉を送らせて貰おう」 桐乃は私からゲームを受け取ると、疑わしげな声色で言った。 「本当にちゃんとクリアした?」 「任務は達成した」 「ふぅん……で。面白かったの?具体的に言って」 「しおりの話の後半は非常に良く出来ていたと素人の私でも驚嘆に値した。 しおりが家を飛び出して、主人公が追撃し、そこでお互いの信念をぶつけあい 最後の戦闘に突入するところなどは……」 「ちょ、ちょっと待って!あんた違うゲームやってたんじゃない!?それ何っ!?」 「私が先ほど攻略したしおりシナリオの話をしているっ!!」 「………私が知らないルートが存在してる……?そんなバカな……」 妹が驚嘆の表情を浮かべている。 逆に問うが、このゲームにあれ以外の話があるのだろうか。 私はあのエンディングこそが唯一無二であると確信している。 「もう一回やってみる……ちょっとあんた来て!どうやったらそうなるのよ!」 「私が君にゲームの事を教える事になるとはな」 妹は私のアドバイスに文句を言いながらゲームの再攻略に勤しんでいる。 「はぁ!?そんな選択選ぶって有り得ない!」「何でそれ選べるのよ!」などと言っているが 私は私に取っての最善を選択肢したに過ぎない。故に妹は私の到達した極み(END)に到達しなかったのだろう。 601: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 03 04 07.05 ID QB/i3zRT0 私は既に見た話であるため、暇を紛らわすために、妹に問いかけた。 「以前、知り合った沙織・バジーナと黒い少女とはあれからはどうなっている?」 「う~ん……一応両方ともやり取りしているよ。メッセとかメールで」 カチカチッとマウスをクリックしながら妹はそんな返事を返してきた。 「そうか。良い友が出来たな」 「友達って言うかぁー……話し相手? いちおー話はあうしさ。色々知らない事とか教えてくれるしー」 まぁ、役には立っているかな」 敢えて言おうそれは友であると!! しかし、私にでも、それは素直言えないだけであると理解出来た。 「まっ……今度の休みは暇だし。またオフ会やるって言うから行ってあげてもいいかなって感じ」 そう言って笑う妹の顔を見ていると今の私、『高坂京介』の人生相談は終了したと実感する。 全ては良い方に回っている。そんな事を私はこの時考えていた。だが、そんな私の思いは 所詮センチメンタリズムであったという事を、思い知ることになる。 603: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 03 44 11.46 ID QB/i3zRT0 日曜日の夕方、私が山から帰って来ると、異変に気付いた。 静かすぎる。妙に張り詰めた空気が我が家を覆っていた。 さながら、戦場の張り詰めた空気に近いと言わせて頂く。 私は張り詰めた空気の出処を、探る。こういう時に戦いで得た感覚は役に立つ。 出処は……どうやらリビングのようだ。そして、このような裂帛の気をこの家で放てるのは…… 親父殿をおいて他には無い。 「予感が当たらねば良いと言いたいが……」 既に私の第六感はこの時点で事態を予想しつつあった。 この空気の出所である、リビングの扉をこじ開ける。 「帰宅の挨拶。ただいまと言う言葉を慎んで送らせていただこうっ!!」 中に入ると妹と親父殿がテーブルを挟んでソファに座り対面している。 両者ともに無言。何をしているわけでも無い。お互いに向かいあいただ無言。 しかし、そんな事は関係ないッ!! 「私は挨拶をしている」 私のその言葉に「おかえり」と 親父殿は短くそう言うとまた黙り込んだ。 桐乃に至っては、俯いたまま反応しようとしない。 もっとも彼女は、少し前までは何度も呼びかけなければ挨拶はしなかったのだがな! 恐らくこういう状況になった原因は……やはりか。 二人の間の机の上には、『ほしくずうぃっち☆メルル』のDVDケースが置かれている。 そして開かれたケースの中には私も先日クリアした『妹と恋しよっ』が入っていた。 言わんことではない!やはり私の第六感あ告げた事態が発生している! この状況、どう立ちまわるべきか。 611: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 04 05 49.50 ID QB/i3zRT0 「京介、ちょっと京介」 お袋殿が廊下から私に話しかけてくる。 「あんたはちょっとこっちにきなさい」 「良いだろう」 どうしてこういった状況になったのか私はお袋殿に問いただす事にした。 どうやら私と桐乃の間に起きたハプニングと同様の事が運の無い事に親父殿と桐乃の間でも発生したようだ。迂闊だぞッ 桐乃ッ!! 「京介……余り驚かないのね」 「驚いてはいるさ」 「もしかして、あんた桐乃がああいうの持ってるって知ってた?」 「見くびらないで頂きたものだな。当然知っているッ!!」 「はぁ~……本当にどうしてあの子があんなものをねぇ……あんなに怒ってるお父さん久しぶりよ」 そんな話をお袋殿としているとリビングより桐乃が飛び出して来た。 その瞳には涙が溜っているのを視認した。そして桐乃は脱兎の如く玄関より飛び出した。 追いかけるべきか……いや、ここはまずは親父殿に事の成り行きを確かめる必要があるだろう。 「きょ、京介……やめなさい」 「断固辞退する!」 お袋殿の静止を無視して私は再びリビングへと入室する。 親父殿は何故か掃除機をかけていた。フローリングの片隅にクリスタルの灰皿が転がっている。 どちらかが、この灰皿をひっくり返したと言う事か。私が目を離した間に何が有ったか語って頂くぞ親父殿!! やがて親父殿が掃除機をかけ終わり、静かに私の方に振り返り言った。 「京介、ちょっとそこにすわ………」 敢えて言おう。既に私は座っていると。 「正座する必要は無い。ソファに座りなさい」 礼を尽くしたつもりなのだが。私はソファに座ると親父殿と対面した。 619: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 04 45 07.27 ID QB/i3zRT0 親父殿の第一声は次のようなものであった。 「京介、お前は知っていたのか」 「先ほど、お袋殿にも言ったが、見くびらないで頂きたい。当然の事だっ!」 罪人の口を割らすために研ぎ澄まされたこの世界での父の瞳。 なるほど。平凡な学生であれば、この瞳に呑まれてしまうかもしれないな。 だが、生憎私は見ての通り軍人だ。 「そうか。お前が何故知っていたかはきかん。喋るわけにはいかないのだろう?」 「良く息子の事を理解している。私はそれについては断固として答える気は無い」 「………幾多の人間を尋問してきたが……お前のような男は初めてだ」 それは褒め言葉として受け取らせて頂こう。 「俺はこういった物をお前達に買い与えた事はない。何故か判るか?」 親父殿をDVDケースを持ち上げ、アニメも中のR18ゲームも一緒くたにして言った。 「それについて考えた事は無かったと言わせて頂こう」 私自身も父にそれらをねだった事はない。 「こういう物はお前達に悪影響を与えるからだ。ニュース等でもよくやっているだろう。 ゲームをやっていると頭が悪くなる。犯罪者の家からいかがわしい漫画やゲームが見つかったと ――もちろんTVの話を全てを鵜呑みにしているわけではないがな」 どうせ碌でも無いものなのだろう。親父殿の顔はそう言っているように見えた。 620: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 04 51 15.20 ID QB/i3zRT0 「真偽はともかくだ。悪影響があると言われている物をお前達に買ってやるわけにはいかん」 「敢えて言わせて頂こう。あれは桐乃が、桐乃自身の得た報酬により買ったものだ。」 「それはそうだな。だから俺は、アレが自分の金で買った物に関しては、それ程口うるさくいうつもりはない。 化粧品だの派手な服だの、バックだの……本来ならばああいった子供らしからぬ物もどうかと思うがな 母親と一緒になってそれが友達付き合いに必要なのだと言われれば、俺にはもう何も言えん。 勝手にしろと諦めるしか無い」 「1つ問わせて頂きたい。化粧品やバッグとアニメやゲームを同列に扱えない理由を」 「あんな世間で良くないと言われる物を桐乃に持たせておくわけにはいかん。 特にアレは俺が言うのも何だが出来た娘だ。下らん趣味にうつつをぬかしているならば 駄目になる前に道を正してやらねばならん」 親父殿の論旨はこうだ。オタク趣味は桐乃を駄目にする、だからやめさせると。 「論旨は理解した。」 「そういう事だ。」 親父殿は立ち上がり、リビングを出ていこうとした。 「しかし、納得は出来ない。私が納得出来ない以上はその論旨は間違っていると断言するッ!!」 親父殿は振り返り私の方をジロリと睨むと珍しく大声をあげた。 「京介……!これだけ言っても判らんかっ!!」 「理屈は良い。私は感情で喋っているっ!!」 「ここでお前と喋っていても無駄なようだ」 再びリビングを出ようとする親父殿。 私の第六感が告げている。このまま行かせるわけにはいかないと。 「どこへ行くつもりだ親父殿」 「桐乃の部屋を調べる。他に隠している物があるかもしれない」 628: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 05 54 28.59 ID QB/i3zRT0 まずいな。あそこには桐乃のコレクションがある。 親父殿であればものの数分もあればコレクションの隠し場所を探り当てるだろう。 そうなれば……言葉を尽くしても恐らく今の私と親父殿は分かり合う事は出来ないだろう。 しかし、桐乃がいない所で桐乃のコレクションが発見されるのは阻止せねばならない! 「もしも、そこに隠している物があったらどうするつもりだ」 「全て処分する。そうすればアレも眼が覚めるだろう」 「ならば私は、貴方を行かせるわけにはいかない」 私は階段を上がっていく父を追いかけ、その前に回りこむ。 「そこをどけ、京介」 「退くわけにはいかないな」 隙を見せれば、警察官である我が親父殿は私をひねり上げ押し通ろうする可能性もある。 ここは私も隙を見せるわけにはいかない。私も伊達に軍人として生きてきたわけではない。 親父殿の眼と私の眼が真っ直ぐに向かい合う。その状況が数分続いただろうか。 「もう一度言うどけ」 「ならば私ももう一度言おう。退くつもりは無いと」 「………何故だ?」 「どんな事情があろうと、本人の許可無く部屋に押し入り家探しするのは 道理に反すると私は考えているからだっ!」 何故、私がコレほどまでに妹のコレクションを庇うのか。 恐らく理由など無い。私は自分自身の感情で動いている。 630: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/29(水) 06 02 56.09 ID QB/i3zRT0 「……良いだろう。俺は桐乃の部屋には入らん。」 「その代わり、京介。お前が責任を持って全て捨てるように桐乃に伝えておけ」 「断固辞退しよう」 「お前は……!」 「私は既に桐乃と約束をしている。男の誓いに訂正は無い。 一度言った言葉を曲げないのは、貴方の教えでもあるはずだ」 「…………」 親父殿は難しい顔をして考え込んでいる。 「判った。お前にはもう言わん。 桐乃が帰ってきたらもう一度俺から言おう」 そう言って親父殿は階段を降りて行った。 親父殿も私と同じく自分の言葉を曲げる男では無い。 故に、桐乃の部屋に許可無く立ち入る事は無いだろう。 私と親父殿も似たもの同士と言うことだ。この世界では親子なのだから当然か。 さて、取り敢えずの緊急事態は回避した そして、現在の状況についても把握する事が出来た。 次は出て行った桐乃を探さなければならないだろう。 どちらにしても、親父殿が桐乃の趣味を認めたわけではない。 これは桐乃の問題だ。彼女が今、どう考えているのか。どうするつもりなのか。どうしたいのか。 それを会って確認しなければならないだろう。 家を飛び出して行った妹の行き先に心当たりはない。 当然ながら『人生相談』が始まるまで、私は妹とそこまで親密だったわけでは無い。 故に、こういう時にどこに行くかなど皆目見当がつかないと言うのが正直なところだ。 ならば!これは戦いの中で培われた勘を信じるのみ! イノベイターである少年ほどではなくてもな! 710: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/30(木) 01 06 15.21 ID wikDxXW20 私の勘も捨てたものでは無かったようだ。 夕暮れの駅前商店街。その中のゲームセンターにて、ほぼリズムを無視して 無茶苦茶に太鼓を叩く妹の姿を見つけることができた。 「死ね死ね死ね死ねっ!!みんな死ねっ!」 「怖い顔だな」 私は背後から彼女に話しかける。 「誰っ!?」 ブンッ! 振り返りざまに太鼓のバチを振るう桐乃 パシッ! 私はそれを受け止めた。中々の太刀筋だ。 だが、私の顔面を捉えるにはまだまだ未熟。 「何だ……あんたか……何しに来たの……」 バチを振り回す姿は威勢が良かったが、口を開いた桐乃は とても弱々しく見えた。先ほどの出来事が尾を引いているのだろう。 「君を追いかけて来たという回答では不服かな?」 「キモ……何それ……ゲームと現実を一緒にしないでよね……」 「私は私の意思に従って行動しているに過ぎないさ」 「い、一々格好つけないでよ……」 そういうつもりは無いのだがな。 まぁ、良い。取り敢えず桐乃には彼女が出ていってからの一部始終を伝える必要がある。 私は、親父殿が桐乃の部屋に入りグッズ類を捜索しようとした事。 帰宅次第それを全て処分するように言うであろう事を伝えた。 「な、何それ……何で……そんなのって……無いよ……」 ここまで弱々しい桐乃はオフ会一次会の時以来か。 いや、あの時以上と言っても過言ではないかもしれない。 だが、私は事態を打開するためにも桐乃に確認しなければならない事がある。 716: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/30(木) 01 27 26.07 ID wikDxXW20 「君は、親父殿と何を話していたんだ?」 桐乃は顔を真赤にして、握った拳をブルブル震わせながら 搾り出すように言った。悔しさ。哀しさ。そういった感情を全て吐き出すように。 「下らんって言われたの…!あたしが好きなアニメもゲームも今日行ったオフ会も……!! 全部!全部全部全部!!……がうのに……!!………なんじゃないのに……あ、あたし……何も……」 その先は殆ど嗚咽となり聞き取る事は出来なかった。 しかし、その気持ちは伝わった。 「あ、あたし……おかしいのかな?こういうの好きでいちゃダメなのかな……」 泣きはらした目で、答えを求める桐乃。しかし、私がそれに回答するわけにいかない。 「それは私が決める事では無い。ましてや、親父殿が決める事でも無い。 君が、君自身で決める事だ。そして……かつて言った事だが敢えてもう一度言おう。 男の誓いに訂正は無い……と。」 「グスッ……そ、それって……どういう……」 「逆に私から問う。君は自分の趣味という道を貫き通すのか それとも、それを捨てるのか。確かに君は文武両道、眉目秀麗。 この趣味さえ捨てれば両親共に完璧である君に安心するだろう。 しかし、君は……桐乃はどうしたい?」 「分かってるよ……あたしが凄いのはあたしが一番知ってる……オタクやめれば 何もかも上手く行く……そんなの最初から分かってる……」 桐乃はそこまで言うと真っ直ぐに私を見つめ、それまでとは違い落ち着いた声でこう言った 「でも……やめないよ!絶対にやめない!好きなんだもん!すっごい好きなんだもん!! それなのにやめるなんて……嫌だ!!お父さんの道理が正しいのは分かってる!でも……」 「そんな道理……あたしの無理でこじあけてでもやめないっ!!」 「良く言った!!桐乃ッ!!!」 ならば、君がその趣味を決して捨てないと言うならば おとめ座の私は『人生相談』に則り、この道を切り開く必要がある。 723:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/30(木) 01 51 53.37 ID PxOtSUwr0 乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられない 自分が乙女座であったことを、これぼど嬉しく思 ったことはない! 好意を抱くよ。興味以上の対象だということさ モビルスーツの性能の差が、勝敗を分かつ絶対条件ではない 身持ちが堅いな!! 抱きしめたいな! まさに眠り姫だ 堪忍袋の緒が切れた…許さんぞ! 私の顔に何度泥を塗れば気が済むのだ! そんな道理、私の無理で抉じ開ける! 今日の私は、阿修羅すら凌駕する存在だ!! 私は我慢弱い! 逢いたかった…逢いたかったぞ!! 私と君は、運命の赤い糸で結ばれていたようだ!! この気持ち、まさしく愛だ!! 愛を超越すれば、それは憎しみとなる! 生きてきた…私はこの為に生きてきた…!とんだ茶番だ 私の道を阻むな! 私は純粋に戦いを望む! なんという僥倖…!生き恥を曝した甲斐が!あったというもの!! 引導を渡す! 武士道とは、死ぬことと見つけたり! もはや愛を超え、憎しみも超越し、宿命となった! これが私の望む道…修羅の道だ! いざ、尋常に勝負! 戦いに集中せんか! 私を切り裂き、その手に勝利を掴んでみせろぉ!! 733: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/30(木) 02 22 13.12 ID wikDxXW20 桐乃には、1時間程したら戻るように言い含め私は帰路についた。 ……戦うだけの人生を送った私。しかし、私と同じだと思っていた少年は最後には対話する事を選んだ。 それが彼の選んだ極み。ならば……彼を超えるために……いや、そういった理屈は関係無いッ! 私はこれより、親父殿と対話しよう。私の感情の赴くままに!! 自宅に戻った私は、お袋殿にも協力を仰ぎ、切り札も手に入れた。 いざ……尋常に勝負っ!!私は親父殿の待つリビングの扉をこじ開けた。 「本日二度目のただいまと言う言葉を慎んで送らせて頂く親父殿!」 「………おかえり」 ……一言だけ挨拶を交わすと親父殿は無言で私を見据える。 「桐乃は見つかったのかのか?」とその目がいっている。ならば答えよう。 「桐乃は見つかった。1時間もすれば戻るだろう」 「そうか」 「だが、その前に私は親父殿に話がある」 「……言ってみろ」 低い声で親父殿は私に発言を促す。 この気。彼が私と同じ時代に生まれていれば恐らくかなりのフラッグファイターとなれただろう。 「桐乃の趣味をやめさせたりなどはさせないとここに宣誓する」 「その事についてはお前と話すつもりは無い。もう俺の理屈は述べた」 「敢えて言おう!その理屈は間違っていると! 確かに桐乃の趣味は私にも理解出来ない部分はある。 だが、その趣味を通して得たかけがえの無い友……それを貴方は否定したッ!」 親父殿は黙って日本酒を飲みながら私の言葉を噛み締めるように聞いてい 808: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 00 10 55.95 ID +geDAOgR0 「私はこの目で見てきた。桐乃のかけがえの無い物を。 沙織・バジーナに黒い少女。初めて桐乃が出会った、腹を割って話せる友だ。 夢中になって好きな事をする事の何を否定出来る!?」 それは私も同じだった。志を同じとする者の存在は力となる。 カタギリ、ハワード、ダリル、ヴィクトル、イェーガン、アキラ、ネフェル、ルドルフ。 ワンマンアーミーを気取った時でさえ、私の隣には良き理解者が居た。 桐乃はオタクという道において、ようやく理解者を得た。 その事は彼女の人生において、きっと大事な事なのだ。断言しようっ!! ならば、私は親父殿と云えどもそれを否定させるわけにはいかない。 少し前までは、桐乃は私にとって理解出来ない存在と言っても差し支えなかった。 お互いのバックボーンが違いすぎた。私自身も積極的に彼女とは関わらなかった。 だが、ここ数日間の『人生相談』は良くも悪くも私の運命を変えたのだ。 敢えて言おう……彼女は……この私、グラハム・エーカーの妹であると!! 故に私は彼女を……彼女の得た物を守ろう!! 「だから……許してやれと言うのか?悪影響しか与えない下らん趣味を」 この瞬間を私は待っていた!! 「悪影響のみ……?その見解は却下させて貰おう。これを見て頂きたい!」 私は親父殿の前に桐乃の成績表、トロフィーを表彰状をつきつける。 人呼んで、桐乃スペシャル!!! 「…………」 「これだけの戦果を挙げているのは誰だ!?他ならぬ貴方の娘だッ!!」 815: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 00 37 16.25 ID +geDAOgR0 「知っている。それがどうした」 「言わずとも判っているはずだ親父殿。貴方の娘はこれだけの人間だ。 そして、その人間が最も大事にしているもの。それが親父殿の否定する趣味だッ! それが悪影響しかない?それは桐乃の人生を否定するも同じッ!!!」 「………何故、お前がそこまで桐乃を庇う?」 「見てしまったからだ。桐乃の本当の笑顔と言うものを。」 私は更に突きつける。 桐乃の過去から現在までが収められたアルバム。 全て親父殿の手によって撮られたものだ。これだけでも 親父殿が桐乃をどう思っているかなど一目瞭然!! 「それとそのアルバム、どう関係がる」 「慌てずに、次を見て頂こう」 そして更に私は1冊のスクラップブックを取り出した。 「……!!」 「これは親父殿の宝だと伺っている。」 スクラップブックには桐乃のモデルとしての活躍が 大事に切り抜かれ何十ページにも渡り保管されていた。 「貴方は娘の活躍が嬉しかったはずだ。故にこうして何よりも大事に保管している。 口では、下らないと言いながらもッ!」 「バカを言うな。娘の仕事を親が確認せずにどうする」 「フッ、その結果がこれと言うわけだ。判っているはずだ。桐乃の仕事が決して世に憚られるものではないと!」 「……そうだな。憚る必要の無い仕事だ」 818: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 00 49 27.29 ID +geDAOgR0 「そう。そして、同様に私はこれも憚る必要の無いものと言っている!!」 私は最後の写真を突きつけた。 桐乃の出会ったかけがえの無い友人たち。 桐乃と黒い少女と沙織・バジーナがそこには映っている。 桐乃は仏頂面をしつつも、その口元は笑っている。本当に楽しそうに。 「…………」 「これが悪影響だけのものかどうか。私以上に桐乃を見てきた貴方ならば判るはずだ。」 親父殿は黙って私の突きつけた写真を見ている。 「敢えて言おう……これら全てが高坂桐乃だ。全て揃って高坂桐乃なのだっ!!」 かつて私は恩師と仲間を奪い空を汚したガンダムに対する憎しみを持った。 しかし、それを超越する程にその圧倒的な性能に心奪われた。 私自身矛盾を抱えて生きてきた。桐乃も自分の中で優等生でクラスの中心という自分と オタクな趣味を持つ自分という矛盾を抱えている。しかし、その矛盾も含めて一人の人間なのだ! 「……お前の話は判った。下らんと言ったのは一先ず取り消してやる。 確かに俺は何も知らん。偏見で言った事は認めよう。お前に免じて、桐乃の趣味を許してやっても良い」 「その旨を良しとする」 どうやら、私は対話を成し遂げる事が出来たようだ。 言葉のみで伝える……戦うだけの存在であったかつての私では出来なかっただろう。 少年……私は少年に近づく事が出来ただろうか? 「だが……一部だけだ」 824: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 01 04 47.77 ID +geDAOgR0 「あのケースに入っていたような、いかがわしい物を許すわけにはいかん これは良い悪いの問題でも、俺が偏見を持っている事も関係ない。18禁の意味を考えろ」 くっ!どうやら対話はまだ終っていなかったようだ。 確かに桐乃の年齢は14歳。これに関しては親父殿が正しい。 しかし、私はかつて誓ったはずだ。何か問題が起きた場合は、その問題は私の無理でこじあけると!! そう……今日の私は……エロゲすら凌駕する存在だっ!!! 「違うな。親父殿」 「何が違うと言うのだ?」 「そのソフトは……【妹と恋しよっ!】はいかがわしい物などでは無いっ!!」 「貴様……この期に及んで……!」 「ならばっ!!今、それを証明しようっっ!!!」 私は最後の切り札……ジョーカーと呼ばせて貰う! それをこの手より解き放つ!! 私はノートパソコンを親父殿の目の前に差し出す。 「何のつもりだ」 「そのゲームの中身。私と共に確認して貰おう!! 私がエスコート役を勤めさせて頂く!」 「む、むぅ……」 828: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 01 07 19.00 ID +geDAOgR0 私と親父殿は並んでノートパソコンの前に座る。 そして、私はDVDを起動させる。 再び会ったな……しおりッ!!!」 【妹と恋しよっ♪】 グラハム「私は君の心を奪う!!世界などどうでも良い!己の意思でっ!!」 しおり「お兄ちゃんだって世界の一部なのにっ!」 グラハム「ならば!これは世界の声だっ!!」 しおり「違う!お兄ちゃんは、自分の性欲を押し通してるだけっ! お兄ちゃんのその歪み!あたしが断ち切る!」 グラハム「よく言った!しおりぃぃぃ!!」 しおり「うわぁぁぁぁぁあ!!」 グラハム「うぉぉぉぉぉぉ!!」 ドカーーーーーーン fin 桐乃は結局。このエンディングには辿りつけなかった。 そう一切如何わしい描写など無い!これは私と少年……いや、しおりとの愛の物語。 そう、この私、グラハム・エーカーのみに許された特別なエンディング!! 敢えて言おう。システムすら凌駕し、既にこのソフトは私の物であるとっ!! 840: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 01 24 53.99 ID +geDAOgR0 「このソフトは如何わしいものなどではない。 そして、今見てもらったようにこれは私がプレイしたものだ それを桐乃に貸し与えていた。余りの美しい物語故にっ!!」 「貴様は……こんな……兄が妹を性欲の対象としているような物を…妹に貸したと言うのか……」 だが、私は見逃していない。 親父殿もこう言ってはいるが、この美しい物語に心動かされていたと言う事を。 「その通りだ。付け加えさせて頂くならば私はこの作品に……いや、アニメやゲームに心奪われた! かつて……この気持ち……まさしく愛だっっっ!!!!」 「こ、この……この……」 頭部に強烈な一撃を見舞われたかのように親父殿はこめかみを抑えながら言った。 「バカ息子がっ!!勝手にしろ!!俺はもう知らん!!」 かつてないほどの大絶叫。ここまでの気迫、私が戦ってきた敵の中でも多くはない。 はぁはぁ、と肩を上下させていた親父は、私に背を向け足音を立てて去っていこうとする。 「親父殿」 「なんだっ!!!」 「敢えて聞こう。貴方はこの物語をどう思った?」 「……下らんとは言わんっ!!」 それだけ言うと親父殿は今度こそ立ち去った。 そう……今度こそ私は対話を成し遂げた。 フッ――我侭なお姫様もこの結果には恐らく満足して頂けるだろう。 853: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 01 43 09.23 ID +geDAOgR0 こうして高坂家を賑わせた騒動が一件落着した、翌日の夕方。 私が学校より帰還すると、何時ぞやのようにソファで寝転がりながら妹が電話していた。 「帰宅の挨拶!ただいまという言葉を送らせて貰おう!」 「あーーもう……五月蝿いのが帰ってきた……ちょっと待っててよ…… はいはい、おかえり。」 少しだけ変わった事が有るとすれば、こうして一度の挨拶で妹が返事をするようになった事。そして―― 「悪かったわね。待たせて。で…それで………はぁ!?ちゃんと見たのあんた!! DVD版の方だよ!?それで何でそういう結論になるわけ!?信じらんない、これだから邪気眼女の感性は…… もういい、いい加減あんたは厨二病卒業した方が良いよ。じゃあね」 こうして妹が本気で語り合える友人と憚る事無く電話出来るようになったと言う事だ。 これからも、彼女はかけがえの無い友人と時にぶつかり合いながらも上手くやっていくだろう。 これで桐乃の悩みは解決。だからこそ、私の『人生相談』もこれでお終いだ。 安心感と満足感、そして少しのセンチメンタリズムな気持ちを感じながら、私はその場を後にしようとした。 855: ◆TYIbS5r7nc :2010/12/31(金) 01 44 04.88 ID +geDAOgR0 「ねぇ」 「何かな?」 ドアノブに手をかけた所で呼び止められて私は振り向いた。 「人生相談……まだあるから」 事もなげにそんな事を言う。どうやらもはや運命を超え宿命にまでなってしまったのかもしれないな。 良いだろう。男の言葉に訂正はない。どんな相談だろうと私の無理でこじ開けるだけだ。 「それと……一応……敢えて言うんだけど……」 そんな私に桐乃は口ごもりながら目を合わせたった一言。照れくさそうに微笑み 「ありがとね、兄貴」 それから、ふいっとそっぽを向く。心なしか彼女の顔は赤く見えた。 私は自分の耳を多少疑いながらも、こう想った。 私の妹がこんなに可愛いわけが――否!可愛いわけがあるとっ!! ED クオリア♪ 第3話 完
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/573.html
第6話「俺の妹がこんなに太ってる訳がない」 ーーー数日後・桐乃の部屋ーーー 桐乃「フヒヒ」カチカチ ーーーリビングーーー 佳乃「ちょっと京介ー」 京介「なんだ?」 佳乃「最近の桐乃ちょっとおかしくない?」 京介「そうか?いつも通りじゃないのか?」 佳乃「部活と学校はいつも通りだけど、休日にこうやってずっと部屋に篭ってるじゃない」 京介「そうだなー。けど前にも休みの日にはずっとパソコン弄ってたんじゃないのか?」 佳乃「そうだけど、呼びかけても返事しないし部屋に内鍵も付けてるみたいだし」 京介「そう言われてみればそうかもなー。じゃあ俺からも少し聞いてみるわ」 佳乃「お願いねー」 ーーー桐乃の部屋前ーーー コンコン 京介「桐乃ー?大丈夫かー?」 しーん 京介「入るぞー?」ガチャ 京介「あれ?」ガチャガチャ 京介「おーい!大丈夫かー?」バンバンッ しーん 京介「桐乃ーっ!大丈夫かー?」バンバンッ 京介「よしっ!こうなったら」 ドンッ!ドンッ! バーンッ!ドア破り 京介「おい!桐乃!大丈夫かっ?!」 桐乃「フヒヒ」カタカタ 京介「桐・・・乃?」 京介「おい、大丈夫か?」 桐乃「今、良いところなのに・・・んっ?」 京介「おい、電気ぐらい付けろよ」カチッ 桐乃「ちょっと何勝手に入って来てんのよっ!」 京介「勝手にってお前が返事しないからだろ」 桐乃「あんたの声が小さいのよ!」 京介「あのなー。まあいい、大丈夫なら。じゃあな」 桐乃「ふんっ!」 京介「あー、そういえばオークションってどうなったんだ?上手く行ったのか?」 桐乃「99%私の努力が実って上手く行ったわよ」 京介「そうか、良かったな。じゃあな」ガチャ 桐乃「ったく」 桐乃(25個全て落札されて、大体1個5千円だから・・・12万5千円) 桐乃「フヒヒ」ニヤニヤ 桐乃(けどこれで1か月とちょっとかー。節約しないとなー) ーーー半月後ーーー 桐乃「ただいまー」 佳乃「おかえりー。おやつあるわよー」 桐乃「はーい。着替えてから食べるね」 ーーー桐乃の部屋ーーー 桐乃「ふぅー」 桐乃(今月は部活で忙しいし、全然お金使ってないよね?) ガチャガチャ 桐乃(銀行口座は持ってるけど、頻繁にお金下すと親にバレるかもしれないし) 桐乃(鍵付きの引き出しにこうやって入れておけば・・・) 桐乃(いち、にー、さん、よん・・・・・・) 桐乃(ふふ、まだ11万円もある!さすが私!) 桐乃「よし、1万円ぐらい財布に補充しておいても問題ないよね」 桐乃「さっ!おやつー、おやつー」バタン ーーーキッチンーーー 桐乃「」モグモグ 佳乃「そういえば、桐乃?」 桐乃「んー?なーにー?」モグモグ 佳乃「アンタモデル辞めてから、よく食べるようになったわね」ニコニコ 桐乃「うっ・・・、確かに」モグモグ 佳乃「ダイエットしなさいとは言わないけど、あんまり食べ過ぎないようにね」 桐乃「はーい」モグモグ 桐乃(そういえば最近は体重計乗ってないなー) 桐乃「ごちそうさま」 佳乃「お粗末さまでした」 ーーー桐乃の部屋ーーー 桐乃「体重かー。モデル辞めちゃってからスタイルなんて気にしてないし」 桐乃「とりあえず、帰りに買ったデザート食べてから考えよう」ガサガサ 桐乃「んー!美味しい!」モグモグ ーーーさらに半月後ーーー 桐乃「うーん、やっぱりコンビニスイーツは美味しいー」モグモグ コンコンッ 佳乃「桐乃ー?ちょっといい?」 桐乃「はーい。なにー?」 ガチャ 佳乃「なんか使ってないクレジットカードの請求が来たんだけど、アンタなんか知らない?」 桐乃「んー?どんなの?」モグモグ 佳乃「これなんだけどね」 ーーークレジットカード明細表ーーー Yahoo!プレミアム会員費 346円 Yahoo!オークション出品システム利用料 157円 Yahoo!オークション落札システム利用料 6562円 合計 7065円 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 桐乃(あ、そういえばなんか手数料が掛かるって見た事あるような、ないような) 桐乃(どうしよう。うーん) 桐乃「そ、そういえば兄貴が・・・・・・」 佳乃「京介?」 桐乃「そう!兄貴が要らない物をオークションで売りたいからって私に頼んできたから、仕方なく・・・」 佳乃「そう。じゃあ京介が帰ってきたら払って貰わないとね」 桐乃「そ、その!私から兄貴に払わせるから!頼まれたとはいえ、私がやった事だし」 佳乃「そう?じゃあお願いね。これコンビニに持って行くだけでいいから」 桐乃「分かった。じゃあそう伝えとくね」 ガチャ 桐乃(7千円かー。私のお小遣い丸々無くなっちゃうじゃん!)モグモグ 桐乃(だけど私にはまだ大金が・・・・・・)ガチャガチャ 桐乃「いち、にー、さん・・・・・・あれ?」 桐乃「いち、にー、さん。3万円しかない」ダラダラ 桐乃「ぬ、盗まれたっ?!」 桐乃「・・・・・・あっ!そういえば、最近は毎日学校帰りにコンビニでスイーツ買って帰ってた気が」 桐乃「それにあやせ達に付き合って、クレープとかも食べたり」 桐乃「そういえば体重計にも結局あの時も乗らなかったし」モグモグ 桐乃「お腹にお肉が・・・・・・」プニッ 桐乃「うっ。もうアクセももう無いし、DVDとかグッズとか売るなら死んだ方がマシだし」 桐乃「うーん・・・・・とりあえずこれを食べ終わってから考えよ♪」モグモグ 残金2万9千9百35円 つづく